ペンギンたちの水漉き影の空
ほら、もうねむるじかんよ?
まだねむくないの。
じゃあ、ペンギンさんをかぞえましょうか。
なんでペンギンさん?
たまには、ペンギンさんも思い出してあげないとね。
ペンギンがいちわ。ペンギンがにわ。ペンギンがさんわ。ペンギンがひゃくわ。
いっきにふえたよ!?
ペンギンさんがいっぱいでたのしいね。
ペンギンさんがにひゃくわ、さんびゃくわ、ごひゃくわ、いいえ、いいえ、もっともっとたくさんのペンギンさんが氷のだいちのうえをあるいてます。
みんなできれいにれつをつくって、おぎょうぎよく、なかよく、よちよちよちよちあるいてます。
なにかはじまった。
でもペンギンさんのなかには、あるかないで氷のうえをはらばいですべるおうちゃくものとか、氷のだんさをぴょんとジャンプするがんばりやさんとかもいます。
みんなでみんなで、みぃちゃんのよこをとおりすぎて、どこかへむかっています。
あれ、みぃもほっきょくにいる?
ざんねん。ペンギンさんたちがいるのは北極じゃなくて南極です。
さむいー。
そうね。ぼうしにジャンパーに、もこもこのくっくであったかくしましょうね。
さて、みぃちゃん、ペンギンさんたちがどこにいくのか、おいかけてみましょう。
はーい。
ペンギンさんたちがいっしょうけんめいすすんでいった先には、あおいあおい海がありました。氷がとぎれてたところから、きゅうにあおいあおい海になっているのです。
どのくらいあおいのかというと、かき氷のブルーハワイみたいにあおいのです。
あまいの?
海だからしょっぱいね。
ペンギンさんたちはみんなで海をのぞいています。
ペンギンさんたち、海に入らないのー?
だってこわいもん。
おぼれたらどうするの。
おちてしんじゃったらどうしよう。
だれか先にいってよ。
おまえがいけよ。
そういうおまえがいけよ。
やだよ、こわいよ。おちたらしぬよ。
ペンギンさんー!? およげるよねー!?
みぃちゃんのおおきなこえをきいて、海をのぞいてたごひゃくわのペンギンさんたちがいっせいにみぃちゃんにふりむきました。
じぃー。
じぃー。
じぃー、じぃー、じぃー。
こわいよ!?
あのこ、おれらよりおおきくない?
おおきい。おおきい。
そうだ、あのこならきっとへいきだ。
そうだ、そうだ、おおきいからきっとへいきだ。
さいしょはあのこだ。
そうしよう、そうしよう。
ペンギンさんたちはおしあいへしあい、みぃちゃんにむかってきて、そして海にむけてせなかをおしてきます。
まって! みぃよりペンギンさんたちのほうがおよぐのとくいだよねー!?
へんなこといってる。
きみもなかま。
なかまだからぺんぎん。
じゃ、きみもおよぐのとくい。
すごい。およぐのとくいなのうらやましい。
やっぱりきみがさいしょだ。
だいじょうぶ、みぃちゃんならできるよ。
ペンギンさんたちはぐいぐいぐいぐい、みぃちゃんをあおいあおい海のほうへとおしてきます。
いま、ペンギンさんのなかにおかあさんいなかった?
気のせい、気のせい。
海におちないようにがんばってたみぃちゃんも、ごひゃくわのペンギンさんたちにおされては、かないません。
どぼん!
おちた! みぃが海におちた! つめたい!
つめたいつめたい海のなか。
そとから見たらあんなにあおかったのに、海のなかはとうめいです。
ごぼごぼごぼごぼ。海の音がきこえてきます。
でもふしぎとくるしくありません。みぃちゃんはいまはペンギンさんのなかまなので、水のなかでもへっちゃらなのです。
いきできる?
いきはできないけど、へっちゃらなのです。ペンギンさんも水のなかでいきしてません。
どぼん! どぼん、どぼん! どぼん、どぼん、どぼん!
みぃちゃんのあとをおいかけて、つぎつぎつぎつぎ、つぎつぎつぎつぎつぎつぎと、ペンギンさんたちがきれいに海へととびこんで、しゅるりしゅるりとロケットみたいにみぃちゃんのめのまえをとおりすぎていきます。
ほら! みんなとびこめるもん! およぐのじょうずだもん!
なにいってるの?
およいでないよ。
ぼくらはとんでる。
鳥だもん。とんでるよ。
およぐ鳥もどこかにいるらしいけど、おれたちはとんでるよ。
ここ、海だけど。
よくみて。よくみて。
ぼくたちツバサをつかってる。
空じゃないけど。
海だけど。
とんでるよ。
ペンギンはとぶ鳥なんだ。
海をとぶ鳥なんだ。
ペンギンさんたちはみんなきれいなすがたで、海をじゆうにとんでいます。
ロケットみたいにとんでいます。飛行機みたいにとんでいます。
ツバメさんのようにくるりくるりとむきかえて。
ハヤブサさんのようにひゅるりひゅるりと波をきって。
ペンギンさんたちはとんでいるのです。
とんでるの? およいでるんじゃなくて?
ペンギンさんはとんでいるのです。
海のうえをみあげたら、お空とちがってきらきらと、ゆらゆらと、太陽のひかりがおよいでます。
海の波にゆらめくひかりをぬうように。
ペンギンさんたちはきれいなすがたでとんでいます。
水のなかでみるゆらゆらなひかり。
みぃ、しってるよ。きれいなひかり。
そらをみあげるのより、とってもとってもきれいなひかり。オーロラににてるきれいなひかり。
水漉き影をしってるの。
水漉き影をしってるなら、やっぱりペンギン。
ぼくらは海をとんで、水漉き影をあびている。
水漉き影のゆらめきがペンギンのいのちのけしき。
かげ? ひかりだよ。くらくないよ?
あれ?
あれあれ?
水漉き影をしらないの?
ペンギンのいのちのけしきをしらないの?
ほんとうのなまえをしらないの?
ヒトだ。
ヒトだ。
もののほんとうのなまえをしらないで、すきかってにまにあわせのなまえをつけてよんでいる。
それはヒト。
そんなことをするのはヒトだよね。
そういえば、あのこはくろくない。
たしかにおれたちといろがちがう。
かたちもちょっとちがう。
それにとんでない。
ほんとだ、およいでる!
あのこ、ペンギンじゃない。
ほんとだ、ペンギンじゃない。
いまさら!?
……でもいっか。
さいしょに海にはいってくれたしね。
ぼくらを海にいれてくれたもんな。
じゃあ、ヒトだけどペンギンでいっか。
そうだね。
そうだよ。
ペンギンだったら水漉き影をおしえなきゃ。
おしえなきゃ。おしえなきゃ。
みてみて。ひかりはかげ。かげはひかり。
ひかりのうつしみがかげ。かげのもとがひかり。
水が漉いた光の影を翼に受けてペンギンたちはとぶのです。
おぼえた? おぼえた?
みすきかげ?
そう。
そう。
よし、これでペンギン。
もんだいなし。
いこう。
いこう。
海をとぼう。
じゆうにとぼう。
水漉き影をみているかぎり、ペンギンはじゆうにとべるんだ。
みぃちゃんはとべるかな?
うん、ゆめのなかで、いっしょにとぶね。
おやすみなさい、またあとでね。
はい、みぃちゃん、おやすみなさい。
またすぐにあおうね。いっしょにとぼうね。
やくそく。
やくそくだよ。
未言 言未
水漉き影(みすきかげ)
水の中へ透過して揺らめく、オーロラのように美しい光。
水底から、見上げれば降り注ぐ太陽の光は地上とはまた違う柔らかな光が其処にある。
えほんちっくみことばなし 奈月遥 @you-natskey
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。えほんちっくみことばなしの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
未言日記/奈月遥
★18 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1,087話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます