1章 アイドルジゴロ

第4話 魁!男塾

 長かった昭和が終わり、平成という年号にまだしっくり来なかった頃、Bは男子校に入った。

 学力的に狙えるからと入ってしまった私立の男子校。それはBが初めて経験した決定的な過ちだった。

 男子校というのは想像以上に男子成分が強かった。男しかいない教室がどれだけ異様な雰囲気をはなっているのか、十五才の未熟な少年はきちんと想像できなかったのだ。

 教室の床にはジュースがこぼれ、ツバやタンが吐かれる。夏には冷房が効いていたにもかかわらず、教室内には異臭で満ちていた。例えるなら、そう、動物園と匹敵するくらいに臭かったんだ。

 女子の目を意識して、積極的になにかを頑張ることもない。

 Bは五月の半ばにして、落ちこぼれてしまった。

 これから三年間、なにかに打ち込んだとしても、輝きの瞬間はおとずれないだろう。

 だって異性がいやしないんだもの。


          ※


 高校に入って速攻で絶望してしまったBだが、六月も半ば、梅雨に入った頃に一人の女子との出会いがあった。

 いや、この場合は再会というのだろうな。

 ある朝、Bは下痢を起こし、電車を一本見送った。ホームにもどるとそこで懐かしい人物を見つけたのだ。

 Bが中学三年のとき、同じクラスだった高原美晴だ。

「よう、高原。なにしてんの?」

「なにって、学校に決まってるやん!」

 高原は両手でつかんだバッグをふり、Bの腰にぶつけた。

 中学の制服はダボッとしていて野暮ったかったが、高校に入った高原は洗練されていた。タイトな制服は女性らしい曲線をアピールしていて、胸のエンブレムが光っている。

 おまけに高原のやつ、薄く化粧までしていやがるのだ。

「途中までいっしょに行こうぜ!」

「え〜、誰かに見られたら噂になるかもやで〜?」

「かまへんよ、どうせ中学の同級生なんて、そうそう会わへんし、満員電車やで、俺が痴漢から守ってやるわ」

「怪しいなー、あんたが痴漢にならへんやろな?」

 あははと軽口をたたきあいながら、彼らは同じ電車に乗った。

 高原美晴はけして美人とは言いがたい。百点満点でいうと、六二点くらいの微妙なレベルで、人によっては『ちょいブス』判定をくだすだろう。笑うと可愛く見える時があり、愛嬌があるタイプだ。

 Bはふだん、中学で同じだった宇田川と一緒に通学をしていた。宇田川もBと同じ高校に通っている。だが……

「すまん、俺はこれから電車を一本遅らせることにする。理由は聞くな。いや、女がらみだと察してくれ」

「ええけど、途中経過は教えろよな」

 宇田川は好奇の笑みを浮かべた。そしてBは『母親以外しゃべる相手はみな男生活』から抜け出すことに成功したのだ。

 Bは高原と通学するようになった。朝というのは一日の始まり、いわば出だし。出だしがよければすべてよしというが、朝一番に女子と二人きり(とはいってもまわりに人はたくさんいるが)で会話を楽しむことで、灰色の男子校生活もマシなものになってきた。

 Bと高原は軽快なやり取りをしていたが、満員電車で体が密着すると無口になってしまった。髪のにおいや、首筋を流れる汗を見ていると性的なものを意識し、勃起をおさえるのが大変だった。

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2058番目の彼氏 大和ヌレガミ @mafmof5656

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