究極神ottar-オッター-

アリエッティ

神々の侵攻

 古代エジプトには多くの神々が存在していた。各々が異なる概念文化を護り司る。そこに支障が生じれば、戦という形で収束を促した。

その度に街々は燃え盛り、悲鳴を上げ住人達は声を上げ逃げ惑うのだった..


「死者よ、闘いを労うのだ!」

「くっ、キリがねぇ。

不死身のミイラをいくら倒した処で戦に終わりがくるかよ!」

生死を司る神アヌビスは魂を運ぶ犬とされ、主にミイラを生成する。

「どうした闘の神セトよ、足りないか沸沸も沸き立つ血を止めるには」

「血も通ってねぇヤツがいうなっ!」

 己の価値や在り方を望み貫き通したい神は基本的に周囲の事などお構いなし、死者が出ればミイラに替えてしまえばいいとさえ思っている。


「ひ、ひぃっ!」

「邪魔だぁ人間如きが!」

「すみません、お赦しを!」

「逃げ遅れがいたか、丁度良い。新たなミイラにしてくれる。捕えろ!」

「ひっ、やめっ..!」

複数のミイラが一斉に男を囲むと布を巻き、乾いた姿の死者へと変貌する。

「悪趣味な犬だ」

「戦闘狂に云われたくは無い。」


ー神々の闘いは止まる事を知らないー


別付近では..。

「堕ちなさい」 「おおっと!」

溢れ出る水流、其れを受け流す緑の体

「どうしたよ?

そんなにワニに泳いで欲しいか!」

「水は悪しきモノを流す静清、貴方のようなけだものを流す存在。」


「そうか?

相性は良いと思うけどなぁっ!」

増水の神アンケト、それに抗い食らい付くナイル川のセベク神。ワニの頭を持ち粗暴な態度で街を荒らす。

「醜く見るに耐えません。

その愚かな口を閉じなさい」

水は剣よりも強し、神の身体がそれを纏えば罰を下す槌と同じ。

「痛ぇ!

てめぇこの野郎、噛みちぎるぞ!?」


街は怒りと暴徒に苛まれ、人々は逃げ惑う。しかし大して大きくもない街の逃げ場などたかが知れている。

「は、はっ!...行き止まり?

小さな隙間がある、ここを抜けたらどこかに繋がるかも。」


「シャー!」「へ、蛇⁉︎」

 とぐろを解いて舌舐めずりで睨みをきかす、エジプトの蛇は毒を持ち危険な種類が多い。

「シャーッ!」「きゃあー!!」

覚悟して顔を覆う。

長い独特のシルエットが宙を舞うのがよく見えた。しかしそれはこちらに向かう事は無く、別の大きな影に捕えられ噛みちぎられた。


「うむ、美味なり。」

「...マングース?」「満腹。」

細く長く、茶の色を帯びた毛の獣。頭には、冠と呼ぶには簡素な器のような円盤が乗っている。

「大丈夫か小娘」「助けてくれたの」

「人間の子供は優しいと聞く、仲間がよく感謝をしていたからな。」

「仲間?」

他の神々と雰囲気の異なる獣。いや、口調や振る舞いから察するに彼も神の一端なのだろう。少女は直ぐに悟った


「我が名はオッター、神だ。」

「やっぱり」「知っていたのか。」

「さっきのヘビはゴルゴンの化身?」

「いいや、ただの蛇だ。」

「何か能力はないの?

街で暴れてる人達みたいに、水を出したりミイラを動かしたり。」

「アヌビスにアンケトか、悪いが我とは任が異なる。」


「任?」


「そう、我はオッター

全国のカワウソを支配する神だ。」

「カワウソだったんだ..」

少女は驚嘆した。彼がマングースでは無かったという事に。

「カワウソって蛇好きなんだ」

「ヘビが好きなのはマングースだ。」

「どっちなの」

「初めから見境などないのだ、人も獣も、草木も花も。見ろ、我がこうして手をこまねけば、同志が直ぐに寄ってくる。皆同じ、生き物なのだ。」

騒めきと共に街を駆け蠢くのは限定された生き物の形。世界で『カワウソ』と呼ばれている獣の群れだ。


「なんだコイツら?」

「あのケダモノだ、何をしている」


「役に立たん悪戯だ、下らん。」

「これで闘ってるつもりなのか?」


「さぁ化身達よ、太陽へ祈れ。

仕えし者がときと現れ暴我を沈める」

 カワウソ達は各々立ち止まり、太陽に手を合わせた。〝役に立たたない〟と謳われた彼等も手を合わせ、信仰し仕えていた者がいた。


「その名は太陽神〝ラー〟である。」


ラーは彼等の願いを聞きつけると、空に浮かび、街中に陽の光を打ち放った


「久しぶりだな、人里は。」


「降りて来やがった、鳥野郎」

「ミイラが消滅きえていく..」


「水は環境を失った、渇きによって」

「ケッ、いけすかねぇやつだぜ!」

破壊と再生を織りなすラーは争いを止め、収束させ修復を施すと云われる。


「荒れた大地よ、絶えた生命よ、再び息を吹き返し自立せよ」

陽の光に〝癒し〟を宿し、触れたものを治していく。

「良かった!

これでまた平和が訪れる。」

「いや、違うな」「え?」

「ラーは破壊と再生の神、朽ちた物に活気を取り戻し修復する。しかし逆にいえば、再び戦が起こるという事だ」


「また...街は壊れるの?」

「ああ、いつかな。

破壊あるところにラーは現れる、困り事があれば太陽に祈るといい。あの獣達のようにな、優しき小娘よ」


「ちっ..冷めた、帰るぜ」

「ミイラが足りん、造らねば」

「水は湧き上がる。延々と」

「腹減ったな、戻るとすっか」

神々は元へと還り、争いをやめた。

 カワウソ達も気付けばいなくなり、姿を消していた。一瞬だけ、歩くオッターの姿だけが見えた。方向が他の神と違かったから、故郷は同じ場所ではないのだと思う。


あの日から

私はよく太陽に祈るようになった。

何がある訳ではない、ただ街の平和が続く気がして。

「カワウソを支配してるって言ってたけど、そのカワウソに感謝されてるって事は私は何者?」

手を合わせながら待っているのはラーじゃない。世間的には役に立たない、だけど私は一番信じてる。


「オッター様、私達を御守り下さい」

私の太陽。

いつも祈りを捧げています。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

究極神ottar-オッター- アリエッティ @56513

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る