5さいのわたしはまほうしょうじょになりました!

ヒノコ

第1話 たまごちゃん

「ヒナがお姉ちゃんになるまでもうすぐね」

ママは可愛い柄の赤ちゃん様の小さな服を畳みながらそうヒナに言った。

「ママ、ヒナいっぱい赤ちゃんのお世話するね、おもちゃもヒナの全部かしてあげるんだ」

「ヒナは優しいお姉ちゃんになるわね、ママももうすぐたまごちゃんに会えるの楽しみよ」

たまごちゃんとはお腹の中にいるヒナの妹の事である、最初ヒナは人間の赤ちゃんも鳥の様にママが大きな卵を産んでその卵から赤ちゃんが出てくるのだと思っていた。

だから最初に妹が出来たとママがヒナに伝えた時にヒナが

「じゃあ卵が産まれるの楽しみだね」

と言ったらパパとママは少し顔を見合わせてから大笑いしたのだった。

不思議そうに首をかしげるヒナにママが

「この間幼稚園のニワトリさんの卵からヒヨコが孵るのを見たもんね、あのね、ヒナちゃんの妹はね、卵みたいにカラに入ってないの、だから生まれるまでママのお腹の中で守ってあげるのよ」

とヒナの癖っ毛を撫でながら優しい声でそう教えてくれた、ヒナはそれは知らなかったと驚いた後

「そっか、じゃあママのお腹はヒナが守ってあげるね」

とママにそっと抱きついてまだ膨らんでいないお腹に耳を当てながらそうママとお腹の中の妹に言った、パパは

「頼れるお姉ちゃんがいてくれて妹も安心してママのお腹に居れるな」とヒナを見て楽しそうに笑った。

その日からまだ産まれていないヒナの妹はたまごちゃんというあだ名で3人の中で呼んでいた。ヒナは毎日たまごちゃんが今日はお腹の中でどんな夢を見たのかとかあくびは何回したかとかプニチュアは何色が好きかとかママのお腹越しにたまごちゃんに問いかけていた、その度にママは優しい眼差しをヒナに向けながら、ヒナの気が済むまで質問をさせてあげるのだった。

何もかもが春の日のように暖かく幸せな時間だった。


その日ママとヒナはもうすぐ出産の為にママが入院する病院に入院中に必要な着替えやパジャマ後赤ちゃん用のオムツやおくるみを持って病院に向かっていた。

朝パパは仕事に行く前

「荷物やっぱり俺が持って行こうか?」

とママに聞いていたが、ママはパパは仕事があるし少しの運動は出産の為の体作りにも良いからと言ってパパの申し出を断っていた。パパはそれでも最近暑くなってきたし…と心配していたがママは

「大丈夫まだ涼しいし」

と再度パパを仕事に行かせてあげようとしていたヒナも

「ママの荷物ヒナも持つの手伝うから大丈夫、ヒナもう5歳だもん!」

と、"もう5歳"の所を声を大きくして言った。

パパはそれでも少し迷った顔をした後、

「じゃあ、お姉ちゃんがそう言うなら、ママとたまごちゃんを頼んだよ」

と言っていつもピカピカに磨かれた黒い靴と四角い鞄を持って会社に向かった。


5月の晴れた空に浮かんだ太陽はヒナとママを少し強く照らしていた。

赤ちゃんの着替えの入ったリュックを背負って、青に変わった横断歩道を渡りながらヒナはとても誇らしい気分だった。

明日はヒナの5歳の誕生日幼稚園の他のみんなより少し早く5歳になれる事、妹が産まれてくる事、パパに頼りにしてもらえた事、ヒナは将来、パパやママや幼稚園の友達や先生皆に頼って貰えるような強くてかわいいプリチュアみたいな女の子になるんだ、自分ならなれるはず、とこの時から心の中で思っていた。

「ヒナ、ブーブ来たら危ないからもっとママの近く歩いて」

ママはヒナと手を繋いだ反対柄の肩に入院用の荷物がいっぱい入った黄色のボストンバックを持ってそう言った、このボストンバックは去年の夏休み白浜に家族旅行に行くように買ったヒナの家で一番大きなバックだ、ヒナが一番好きな黄色を選んで、浮き輪やレジャーシートを入れていたボストンバック。

今は赤ちゃんの為の荷物で膨らんでいる。

ヒナはもう一歩ママの近くを歩きながら、手をギュッとにぎった。



ヒナと繋いだママの手は少し汗をかいていた。


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5さいのわたしはまほうしょうじょになりました! ヒノコ @hinoko777

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