物語は、主人公が小学生の頃の大親友と再会するところから始まる。
最初は懐かしい気持ちで話をするが、どうも何かがおかしい。
情報が少しずつ明かされるにつれて、雲行きが怪しくなってゆく様子がたまらない。
「だって書いてある」という鄕介の言葉にゾワッとし、「約束」の話が出てくる頃になると、もう物語の結末を見届けずにはいられない。
わずか四千字未満の作品だが、なんと濃厚な物語だろう。
二度、三度と読み返すたびに、作品の「外側」にある事情も少しずつ見えてくる。
「招待状」は誰から送られてきたのか。
鄕介は今までどのように過ごしてきたのか。
そして、主人公はこれからどうなるのか。
考えれば考えるほど、物語の背景が広がってゆく。
作品自体は謎めいた雰囲気だが、鄕介の目線ではシンデレラストーリーとも解釈できる側面があり、そういった点も面白い。
貧しい家庭で育ち、遠くへ行きたがっていたという鄕介の過去にはとても共感するし、また、一種の愛おしさすら感じる。
SF、月、謎めいた展開。
ひとつひとつの要素がとても自分好みの作品だった。
月を見たとき、きっと私はこの作品を思い出すだろう。