005
今朝訪れたあの場所の入り口に俺は立っていた。
息を呑み、ドアに手をかける。建て付けの悪いドアがガラガラと音を立てて開かれた。
「一応来た……よ……って、誰もいないじゃん。早く来過ぎたか?」
鍵は壊れていると今朝中二が言っていたのを思い出す。
待っておこうか? ——いや、白枦は保険室にいるはずだ。たぶん中二が迎えに行っている。
次の目的地は保健室。すれ違う可能性を減らすために最短ルートを通った。
結局保険室にたどり着くまで中二たちとは会わなかったわけだが、もしかして別ルートを進んだのだろうか。だとしても何ら問題はない。どうせまた戻るのだから。
保険室にノックをかけてドアを開いた。――途端。
「ビクトリィィィィィ!! 私の勝利です!」
中二の叫び声が響いた。
「あー! もう負けた!」
「……帰っていいですか」
「…………もっかい」
保健室の真ん中に用意されたテーブル。その上に広げられたトランプ。見た感じスピードをやっていたらしく、席の配置から対戦は『青葉先生VS中二』と『白枦さんVS知らない女子高生』で行われたようだ。
「保健室でなにしてるんです」
前回来た時もそうだったが十七時前に遊んで、バレたらきっと減給モノだ。
「三笠君だっけ。どうしたの、また鼻血?」
「違いますよ。用があるのは中二と白枦さんで」
「ん、私ですか?」
「一応、朝俺は行くって言ったし」
「はへー。律儀ですね」
「約束した手前な。――で、なんでここでやってるの?」
「それはですね、青葉先生が八尋を連れてきたので折角だし皆でやろうと」
八尋さんというのは白枦さんと対戦していた女子高生のことだろう。
「朝の先輩たちは?」
「あの方たちは各々好きなことやってますよ」
「三笠君も一緒にやる?」
トランプをお札みたいにチラつかせて遊びに誘う。ちょっと癪な誘われ方だが、もともとボードゲームで遊ぶつもりだったし場所が変わったぐらい気にしまい。
「で、何するんですか?」
立て掛けてあったパイプ椅子を広げた。
「あの、人が来たことですし私はこれで——」
「そう言わずに!」
鞄を持って立ち上がり帰ろうとする八尋さんの手を青葉先生は掴んで再び椅子に着かせる。
「もう少しやっていこう」
「…………」
どうやら八尋さんは乗り気でない様子。青葉先生が連れてきたと中二は言っていたが、どういう経緯いで連れてこられたのだろう。
「せっかくですし、今度は罰ゲームをつけましょう!」
「罰ゲーム?」
「あった方が燃えるでしょう?」
「具体的にはどうするの?」
「一位の人が最下位に、二位の人が四位の人になんでも一つ命令できるってのはどうでしょうか」
ウキウキで提案する中二だが、何か命令したいことでもあるのだろうか。こいつのことだ、どうせ一緒に中二遊びに強制参加させられたりするのだろう。
「いいんじゃないかな」
青葉先生が首を縦に振った。
「ミナミと八尋さんは?」
「おっけ」
「私は反対。命令されたくないし、したくもない。私にメリットがないわ」
「本当ですか? したくないんですか、命令。これは神々より与えられた絶好の機っ! もし王者になれば私たちとの縁を切れるかも知れないんですよ? あ、もしかして……私に負ける事を恐れて? いいのですよ、いいのです! 所詮人間など、私に牙を向ける事すらできない屁っ放り腰なのですからっ!」
言い方がうざったいことこの上ないが、口にしている内容は小学生レベルの煽りの数々。
俺が煽られたのならば、一蹴してバカらしいと鼻で笑ってやるのだが。
「そんな稚拙な煽りに誰が乗ると思っているの? でもまぁ、そうね。あなたたちと縁が切れるのならこの勝負受けてもいいわ」
もしかして八尋さん、負けず嫌い?
「じゃあ決まりね。ゲームは何にするの?」
「無難なところでダウトにしましょう」
机に広がったカードを中二がかき集め、リフトシャッフルをドヤ顔で見せつける。そういうのはさり気なくやるから格好良いんだぜって教えてやりたい。
「一応最後に先生がシャッフルしてあげる」
「イカサマシャッフルなんてしてませんよ」
「一応ね。罰ゲームが掛かってるわけだし、先生だって負けたくないから」
トランプは中二から青葉先生の手に渡り、巧みにパーフェクトシャッフルされる。
「なっ!」
あまりにも何食わぬ顔で見せつけるものだから、中二は下唇を噛みしめ悔しがる。そんな表情をみて青葉先生は心なしか顔がにやけている。大人げない。
それぞれに裏向きで配られたトランプ。実を言うとダウトはあまり遊んだ経験がない。ルールを知っているくらいなもので、戦術だとかは全く知らない。
とりあえず嘘がバレなければいいのだ。表情筋を緩めてゲームにかかった。
ラブコメっていたい!(未完成 木々あいろ @kikiairo
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