情報過多精神的瑕疵物件 11

次にティンカーさんが言葉を発するのを待つにつれ、神経が研ぎ澄まされていく。

店の匂いの構成。壁に掛けられた針の音。人形のそれぞれの服のシミやシワの違い。

 些細な事にまで張り巡らされる。

吐息や囁き声の内容。度に神経をひどく振動させる。

「閉店時刻だ。後は君達の所長さんと相談した方がいい」

なるほど辺りを見渡せば店内の微かな灯火が眩しく感じでしまう程に後は真っ暗闇だった。

「世話になった」

いつも通り極めて平坦にお礼をして立ち上がる篠崎さんの後を追う自分の背後を見た。

 身体が動かないんだ。まるで椅子と一体化したように。

「日頃のお礼もありますから」

店を後にした二人にティンカーの呟きは届いたのだろうか?

「人をかたどる呪い。お前はどこからやってきた?」

声は低く響いた。

「お前は子供たちに悪影響を及ぼす」

右手で杉原を象っているものの顔を掴む。

一筋の真っ黒な煙がのぼって、椅子の上には一束の髪の毛が残された。


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事故賃貸物件案内所 アホマン @lainlove

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