1-5 何が遅いんだ?

 〈ディバフルモスキート〉と名付けたその召喚虫が決め手となり、この戦いは決着がつくと思われた。


 合計1100にもなる数の攻撃を耐える術はないと、覚家の戦闘隊長は踏んでいた。


 しかし、予測は外れることになる。


 独立魔装部隊隊長、鈴村宗一の周りに、まるで晴れた夜空に浮かぶ星のような光が千に及ぶ数煌めく。


(なんだ……?)


 いまさら何をしようというのか。


 覚がその光景を分析した次の瞬間。


 宗一の周りを輝いた星の数々が激しい発光と共に、すべてを貫く光の直線を描き、たった2秒で、覚が放った紅炎の攻撃をすべて貫く。そしてそれだけではなく続けざまに放たれる線にも及ぶだろう光の筋が、宗一に迫っていたを蚊をすべて殺しつくした。


 たった一瞬で、とどめのはずの攻撃は阻止される。


 そして今までと違い、まるで得物を追い詰めたときの猛々しい目で宗一は覚を見た。


「何が……?」


 そして奇妙にも思える笑みを浮かべ、そして覚が一瞬で畏怖を覚えるような圧を放る。


「何が遅いんだ?」


 宗一を目の前に、紅炎の使い手はようやく気が付く。


 鈴村宗一という男は、力を1厘すら出していなかったこと。


 そして、もう1つ。


 弾丸の威力は〈人〉である自分の炎を容易く貫通する。そしてそれほどの力を持つ光弾をほぼ同時に1000発以上撃つという芸当。人間には到底不可能な行為だ。そもそも人間はそのような武器を想像できても、それを創造することができるほどの原料であるテイル粒子は持っていない。


 ふと、彼は独立魔装部隊のある噂を思い出した。


〈人〉を殺すための特殊部隊、独立魔装部隊の隊長は人間に肩入れをする頭のおかしい〈人〉であると。


 今の圧倒的な攻撃力を持つ光弾を多数展開し、その光弾の多さで敵を圧殺するその攻撃方法は、この領地を治める最高権力者、伊東家と同じように別の地方を治める家、八十葉家の至宝と呼ばれる〈星光の涙〉によく似ている。


 背筋が凍る。


 今ようやく立った1つの仮定が真実だとすると、今自分は恐ろしい男を目の前にしているということだ。


 しかし、あり得ないと自分に言い聞かせる。


 八十葉に連なるほどの男が反逆軍という、人間の家畜小屋に名を連ねているはずがないと。


 いずれにせよ、相手を見誤っていたことは間違いない。


 覚家の男はすぐに、自分にかけていたリミッターを解除し、本気で戦うことを決意する。否、それだけでは足りない。


 伊東家から借り受け、待機させていた精鋭部隊に出動命令を下す。それで数の暴力で格上だろうと予想できる敵を殺すことにした。


「どうした、さっきまでの余裕が消えているようだぞ。せっかくそちらが少し本気を出したようだから、俺も力の一端を見せてやったというのに」


「お前……〈人〉だな……! なぜ、反逆軍などに、貴様は〈人〉の誇りを捨てた愚か者なのか」


「十人十色という言葉があるだろう。お前のように人間をゴミとして扱うことしかできない奴もいれば、人間と共に生きようと思う酔狂者もいるということだ」


「馬鹿な、気が狂っている……!」


「おいおい。思想は自由だが、お前が正しく俺が間違っているというのは心外だな。俺にとって反逆軍は実に心地がいい。特にこの地のような酷い差別の理不尽な暴力、生死を強いられるような人間たちを救い、多くの人間の良き営みを守り、人間の価値を示し続ける。俺は、そのために命を燃やす尽くしているその輝きに惚れたんだ」


 再び、1秒100発に迫る数で、宗一は光弾の猛攻を仕掛ける。


 覚はテイルを惜しみなく使い、自分を守る紅炎の盾を創り出す。


 光弾を受け、すぐに削り消されそうになるのを、炎を注ぎ続けることでかろうじて盾を維持し続け、自身の身を守ち続ける。攻撃は精鋭部隊が到着してから。それまでを耐えるつもりだ。

 

 精鋭部隊は高速移動でこちらへと向かっている。


 残り1分もあれば、ここにたどり着くだろう。


 しかし、


「厄介な炎の盾だ。そして多人数の援軍も来ていると見える」


 見えないはずの敵まで予言して、ソファで伸びをする。そして、敵がいないはずの方向を見ると、


「このまま戦ってもいいが、部下が初めて俺の戦い方を見る機会だ。ここは大盤振る舞いといこう」


 そして、宗一は右手に、黄金の刃を持つ二又の槍を創りだす。


「奥義は見せないが、我が宝具への拝謁を許す」


 覚はその武器を見た時本能的に理解する。


(アレはヤバイ……!)


 命の危機を前に体が震えている。


 覚は炎の出力を最大にして警戒する。


 宗一の二又の槍が振動を始め、空気を震わせ始めるのが見て取れる。


「……せめて死に様で俺を興じさせろ」


 そして宗一の周りだけ、別次元に存在するかのように、空間が歪み始める。


「一掃せよ。音叉よ」


 鼓膜を易々と破壊する、空間を割るような轟音。


 そして本来は決して敵にならないはずの空気が凄まじい圧力を伴って爆発のように広がっていく。


 巻き込まれた覚、その紅炎は容易く吹き飛ばされ、覚は凄まじいプレッシャーを受けながら吹き飛んでいく。


 ――それだけでは止まらない。


 槍を爆心地としてその衝撃波は広がっていき、破滅は広がっていき、廃街に置いて形を保っていた建物はそのすべてが崩壊を始め、こちらに向かっていた精鋭部隊はその破滅に巻き込まれて、絶滅する。


 結果。


 残っているのは宗一の周りだけ。


 その他、要塞の周りの廃街のすべてが完全に崩壊した。


「……加減はしたつもりだったが」


 鈴村宗一は、ソファで再び寝っ転がり、


「まあ、所詮はこの程度か」


 中断していた読書を再開した。


「すげー」


 先ほどの攻撃を何とか耐え、今までこの戦いを見物していた瑠唯と高貴が、隊長の戦いの様子を見た感想をシンプルに言葉にした。


 宗一はドヤ顔でのぞき見をしていた部下に一言。


「お前ら。後でお仕置きだからな」

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[短編集] Against 〈human〉:傲慢なる〈人〉への反逆 リベレイターズ とざきとおる @femania

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