★★ Very Good!!
優劣を根幹としたニンゲンの悪感情を突きつける(長文)。 勝心 武弘
この作品は、〝優劣〟を主軸として〝差別〟〝支配〟の2つの間柱が存在しています。
世界観は現代日本を明治前期まで退行させつつも、科学的に発展し、十二個の地域に分断されたようなカンジ(誤謬《ごびゅう》は容赦ください)。重要な付加要素は、なんと言っても特殊なデバイスによって用いられる〝テイル〟という特異な粒子です。この存在が作品の戦闘シーンにおいて、単なる〝魔法〟として登場するわけではなく、ほのかな〝科学〟の匂いを漂わせ、異能力バトルを一層に知的なものへ昇華しています。
そして、舞台となる世界に広がった特異な価値観と人種が、物語のなかで黒い煙のようにたちこめていました。
主人公を含め、人間たちは〝テイル〟を生成・内包していて、新人類〈人〉は、〝テイル〟から生まれた人間の上位互換的存在であるにもかかわらず、人間の持つ〝テイル〟に依存している。『搾取するがわ』と『されるがわ』といった構造。
ストーリーの主軸は、主人公が〈人〉からの強襲を受け、さらわれた友人や恋人(あるいは妻)を助ける、という明瞭なもの。このストーリーに付随された〝支配〟が〝家畜と人間の関係〟さながらに、汚くも情念を揺するかのごとく描かれています。
物語の導入ですが、おそらく私は著者の意図したとおりに驚かされました。まさに〝揺すり起こされた〟かっこうです。
しかし、ふとした表記ゆれが否めない。おそらくですが、この作品は三人称多視点(ないしは神視点)もしくは三人称一元視点の憑依型(語りの人物を入れ替えること)によって描かれています。つまるところ、〝どっちなのかが分かりづらい〟のです。
登場したときには〝少女〟とされていた人物が、ふとした瞬間に〝固有名詞〟に切り替わり、かと思って読み進めれば、また〝少女〟に戻る。〈人〉が人間から〝テイル〟を吸う説明のおり、旧友の名前を並べたあとに、戦っていた女性が〝李里…
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