1-4 隊長 VS 覚家最高戦力
反逆軍、独立魔装部隊副隊長、野田和幸。
反逆軍の中でも幹部を除いた最高戦力と呼ばれる守護者、階位6位に彼の名前はある。2年前にあった源家本領の戦いを機に、彼は強さに貪欲となり、危険な任務にもよく首を突っ込んで死にかけながらも急激に力をつけて、この地位へと昇りつめた。
その彼からすれば、迫ってくる敵はあまりにも弱すぎる。ただ1人も要塞の方へと向かわせた覚えはない。
しかし、要塞は凄まじい爆発を起こした。もう建物など全く残らないほどの大爆発であり、中に居た連中は爆炎と建物の崩壊に巻き込まれ全滅だろうというほどの。
「あいつら、しくじったな……!」
高貴と瑠唯の任務失敗に憤る一方で和幸は目の前で起こった爆発を冷静に分析していた。
(これほどの火力を出せるのは間違いなく〈人〉だ……!)
人間と〈人〉。見た目に対した違いはないものの、その違いは確実に存在する。何より想像を現実にするために必要な万能粒子テイル。原料を潤沢に使えればその分、実現できるものの規模は大きくなる。
要塞を一撃で破壊できるほどのテイルを持っているのはそれこそ人間意外にありえない。
仲間に関しては別に心配していない。
この爆発で死ぬくらいなら、正直これから先の任務でも死ぬ可能性が高い。心配して助けに行くだけ損だ。
それよりも気になることが1つあった。
「キレてんだろうな……隊長」
独立魔装部隊の隊長、鈴村宗一(偽名)は、短気というわけではない。先ほど怒ってはみたが、部下を吹っ飛ばしたのも、部下なら着地ぐらいできるだろうという信頼に置いて過激なスキンシップをとっているだけだ。仕事の成果にはは妥協を許さないが、魔装部隊のメンバーに対しては副長である自分よりも甘いのではないかと思えるレベルだ。
しかし、敵に対しては話は別だ。
基本的に隊長は自分に攻撃を仕掛けてきた敵を無事で帰したことはない。本当の名前を知ればそりゃ無敗だろうと分かるのだが、その場合、恐ろしいことに敵だけではなく味方に甚大な被害が出る可能性があるのだ。隊長の大暴れによって負傷して、魔装部隊を引退せざるを得ない形になった隊員も何人かいる。
「さすがに本気にならないとは思うが、気が乗らないよう願うばかりだな……」
そう言って和幸は、任務の続行を決意する。
敵はまだ来ている。せめて隊長の邪魔にならないように、その敵を抹殺していくことにした。
要塞は崩壊した。
ついさっきまでそこには巨大な建物があったはずなのに、それはもう存在せず紅い炎が燃え上がり、大量の煙が天へと昇っていくのみ。
傍から見れば、もはやその中で生きている者は存在しないだろうと断言できるだろう。
「呆気ないものだな」
失望のあまり、誰もいないにも関わらず、覚の口が動いてしまう。本家からわざわざ出向いたというのに呆気ない終わりを迎え、気分も高揚しなかった。
何も楽しくないただの仕事だった事実に、八つ当たりもしたくなる。
紅い炎の三日月をやけになってもう1発、すでに瓦礫になっているはずの要塞跡へと放った。
意外な反応が返ってくるのはその時。
爆発しない。何かに当たれば爆発するなり、何かが破裂する音がするなり、何らかの音があっておかしくないはずだった。
しかし、何も音がしないという反応が返ってきたのだ。
失望は歓喜へと変わる。
(まだ……いる! あははははは)
口にはしないが、内心、まだ敵がいることがとても嬉しかった。
(せっかく戦えるからってちゃんと準備をしてきたんだ。使いたくてたまらないんだよ。次に出てくるのは、それが使えるようなもっと楽しいヤツであれよ!)
そう念じて、攻撃を中止、敵の存在を確認するために煙が晴れるのを待つ。
崩れ落ちた要塞。もはや何も残っていないはずの1階だが、唯一、ソファと周りの床を守ることで、上の階からの崩落の瓦礫を跳ね除け、寝っ転がって読書をしている男が現れる。
かなりシュールな光景だろう。その男、独立魔装部隊、隊長鈴村宗一が座しているソファの周りだけはとてもきれいに保たれ、後の周りは瓦礫と赤い炎だらけ。
「ん……? なんだ。屋内に居たはずだが……」
その男は周りを見て、
「なんだ、要塞が破壊されたのか。不出来な部下どもめ。俺の別荘にでもしようかと思っていた建物をみすみす破壊させてしまうとは。これは後で地獄の特訓だな」
呑気にあくびをしながら瓦礫の山の中央に、ポツンと1人寝転がっていることは特に気にせず、それを行っただろう敵を見る。
本を閉じて、近くの机に投げようと振りかぶり、もうその机は存在しないと気づき、近くに置くことに。
(なんだ、あいつ……?)
自分が危機に立たされていることに気が付いていないのか。
そう思い、もう一度紅い炎の三日月をその男に向けて放った。
消えた。
攻撃は届かずに消えてしまった。
「ああ、俺の別荘を壊したのはお前か? 面白い攻撃だな、それ」
ここでようやく、隊長である宗一が覚に興味を向けた。
「随分と余裕な態度だな。貴様。人間ならば俺に畏怖して、恐怖に震えて当然だろう」
「そうか。だがそれなら俺が畏怖する必要はないな。俺はお前に後れを取るつもりはないから」
「ほざけ」
覚は自分の周りに槍にも大きな矢にも見える紅炎を創り出す。その数は10本。やや『できそうな』相手に多少の喜びを感じつつ、口を歪ませる。
「どこまで抗えるかで、俺を楽しませろ、下等生物」
それを一気に、その宗一に向けて発射した。
宗一は手を銃に見立てた形にして、人差し指の先から、一筋を光の筋を撃ちだした。それは紅炎に直撃すると、その炎に負けず貫通する。
器用に10本。黄金の光で紅炎を貫く宗一。
「ほう? 少しはやる」
「この程度か。なら読書の邪魔せず、部下と遊んでろ」
「馬鹿を言うな。その部下は死んだ。俺の前で、無様を晒しながらな」
紅炎の攻撃、今度は15本。
「お前もすぐそうなる」
宗一は覚の言葉に若干不快な顔をしながら、決してソファから立つことはなく、同じように撃ち落としていく。
次は20本。
次は30本。
器用に炎を撃ち落としていく宗一だが、さすがに手数が足りなくなってきたのか、両手を使い、紅炎を撃ち落としながら、覚に攻撃もする。覚はそれを矢や分厚い炎の壁で防ぎながら敵の能力を予想していた。
テイルによって想像が実体化する世界ではあるが、想像は100パーセントの正確性を求められる制約から、テイルによってこの世にないものを完成させるためには想像による開発期間は普通に1年かかったりする。万能粒子は便利な一方で、魔法のようにポンポンとなんでも生み出せるほど簡単なものではない。
武器もその例に漏れず、自分が使った武器を対策されると苦しいし、相手の攻撃を見切ることができれば戦いを有利に進められる。お互いに戦場で不利を打破するような奇跡の想像ができない限りは、相手の戦術、相手の武器を研究することは大いに有意義と言えるだろう。
(高い貫通力の弾丸だな、だが手数に限りがあるらしい。このまま炎で串刺しにするのは、数の暴力で容易い。防御にだけ注意だな)
覚はそのまま、数を50本に増やし、相手に撃ち込んでいく。
「どうした? そろそろ立ち上がれよ? 意地なんて張らず、人間らしく醜く足掻けよ」
30本でも両手を使ってギリギリだった。その様子を見れば50本を防ぐのは無理なはず。
しかし、予想は裏切られる。
「増えたな。いよいよ戦争らしくなってきたじゃないか」
宗一は撃ち落とせない分をシールドで防御し始める。紅炎はシールドを貫こうと次々、宗一が展開した黄金の光の障壁へと刺さるが、解けるように消えていく。
(俺の攻撃を止めるシールドか。さっきの奴と違って、どうやらかなりの硬度を誇るようだ)
防御をシールドに任せ始めた宗一は、指の先から撃ち放つ攻撃を相手へと向けることができる。
「さて、どこまで耐えられるかな?」
自信ありげに話す宗一。その理由はやはりこの圧倒的な攻撃力を誇る光弾だろうと覚は予測する。自分の炎が薄くなり、薄膜一枚先に光が透け見えた時には焦りを覚えたほどだ。
覚は、相手の一撃の強さを認める。
確かにこれほど強力な光弾とシールドを使いこなすならば、目新しさはないが、弱くはないだろう。覚は、目の前の男をそう評価する。
故に覚は、『可愛いペット』に次の一手を任せることにした。
目で見るにはあまりにも小さいその存在は羽音をたてその場から去った。
伊東家領の〈人〉が得意とする、自分に絶対服従の生物を召喚、使役して自分を援護させる、一般的に召喚術と呼ばれる戦術の1つ。
「やるな。人間風情が」
「ほう? なんだ褒め言葉か?」
「お前は確かに悪くない。だが……足りないな。俺には勝てない」
宗一は不愉快そうに首を傾げる。
「なぜだ?」
「すぐに分かるさ」
宗一が再び攻撃を始めようとした瞬間。
「ん……? ぐ」
宗一をめまいと強い脱力感が襲う。
「なんだ……?」
何とか力を振り絞って、その原因となっていそうな、腕の変な感覚を得ている部分をはたく。
ぷちゅ、と何かがつぶれたような感じ。手の平を見ると、死骸となった虫がそこに在った。
「蚊……か?」
覚家の本家の人間である彼が使うのは〈デバフモスキート〉と名付けられたオリジナルの召喚虫。直接的な攻撃力はないものの、毒を媒介して、地を吸うのと同時に即効性のテイル毒を体へと注入して、刺した人間を行動不能に陥らせる。
「体が動かないだろう? 手が動かないんじゃ、光弾も撃てまい?」
「……貴様」
「まだ俺を睨めるだけの活力があるのは驚きだ。だが」
宗一は蚊が他にもいないかレーダーで確認する。そのレーダーには1000を超える反応が現れていた。
「そいつらは生物だ。いくらシールドを張ろうと躱していく。自分を覆うようなシールドを張るか? ならそれは」
覚家の戦闘隊長は100以上の紅の炎を見せびらかす。
「俺が徹底的に削り、穴をあける。毒も積もれば脱力感だけで済まなくなるぞ?」
宗一の顔から今まであった余裕の笑みは消えた。
覚はそれを見て愉快な気分になりながら、
「なあ? 死に場所がソファの上なんてどんな気分だ? 嫌だろう? 無様だよなぁ?」
宗一に死刑宣告をした。
「だがもう遅い。せいぜい死にざまで俺を興じさせろ。人間」
蚊と、そして多くの紅の炎が宗一へと向かった、迫りくる脅威は蚊だけで1000、炎が100。手が動かない宗一、仮に動いたとしても、今までの方法では決して凌ぐことはできない。
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