色々いろいろ、色といろ

帰り道、土手沿いを歩いて帰ると、川に光を反射させてきれいな夕焼けが嫌でも目に入ってくる。


「大野、今見ている夕焼けは本当に赤いのだろうか」


「そりゃそうだろうよ。俺から見ても赤いよ」


「そう、でもさ、夕焼けっていうのは赤だけじゃないだろう」


「あーまあオレンジとか? 夜空とか混ざった青とか色んな色はあるけど」


「そう、だからさ俺の夕焼けとお前の夕焼けは必ずしも同じじゃあないわけ。さらに言えば同じ赤を見ていないわけよ」


 大野はどうもしっくり来ていないようで首をかしげる。俺はそこらに落ちてた枝を拾って地面に絵を描いて説明する。


「これは思い込みというかそういう話だし、まぁ結論から言うと意味はないと思うんだけど」


「意味ないのか」


地面にリンゴの絵と、大野、そしてオレを簡単に描く。


「俺はさ、このリンゴを見てるとしてさ、赤リンゴだって思うわけ。で、大野は今これと同じをリンゴを見てるとする。何色だと思う?」


大野と俺から林檎に向かって線を引く


「まぁ同じリンゴを見てるから、赤だろ」


「そう、同じものを見てるから同じ色に見える。でもさ、この赤ってどの程度の赤だっていうのは、普通その場話さないわけよ」


「どの程度っていうのは?」


「RGBがわかりやすいな。俺はRが170くらいの赤リンゴに見えてるとする。でも大野はRが220くらいの赤に見えてるとする。この時お互いにリンゴの色を聞かれたら、赤だっていうけど、実際に見えてる色はちがくなるじゃない?」


「確かにな。俺の方が鮮やかかも?」


「つまりさ、それで言うとだよ。一緒に見てるこの夕焼けの色は様々な色があって境界があるわけでさ、好みが違えば見た時に感じる印象も、赤いなぁとかオレンジだなぁとか色々なるわけじゃない? だから見えてる世界というか受け取る世界というかそういうのが正確には俺とお前じゃ違うわけさ。」


大野は理解したようなしていないような微妙な顔で首をかしげる。


「でもさ、それじゃあ絵に描いたらちょっとは違いが出るんじゃないか?」


「その通り。それが色彩感覚ってやつで絵の才能なんじゃないかなぁと俺は思うわけよ。根本的にさ、絵がうまいやつとそうじゃないやつってのは毎日細かい部分で見えてる世界が違うんだよ多分。だからポンポンインスピレーションがわいてすげぇ絵を描いてるんじゃないかって思うわけよ俺はさ」


「なるほどね。で、それが俺が賞を取れてお前が取れない理由だと」


「……まぁそういう事になるかな」

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ウイスキーを三杯飲んでから書く話 さめねこ @same_dog

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