ウイスキーを三杯飲んでから書く話
さめねこ
飲酒独白の夜
「幻想第四次銀河鉄道の乗車券がほしい」
だれも居ない自宅でそうつぶやいた。
前にそう言った時は
「そんなものがあればもう本当にどこにでも行けるのだから、それはとてもわくわくするね」
なんて答えが返ってきたが、自宅で1人酒を飲んでいる俺に返事をするものは居ない。
幻想第四次銀河鉄道の乗車券さえあれば、こんな六畳ワンルームなんて場所じゃあなくて本当にどこまでも行けるのだろうなぁ。とそんな夢想をしながらウイスキーを傾ける。
税込み1760円。それが今飲んでいる酒の値段だ。酒なんてのは不思議なもんで、高い酒でも合わないもんは合わない。だが、今飲んでる税込み1760円の酒はえらく飲みやすく、ハイボールにしても、カルピスで割っても、オレンジジュースで割ってもなんでも飲めるのだもの。
ああ、俺の舌は税込み1760円がくらいが関の山なのだろうかと思う。
すっかり酔いが回り足をぶらぶらとさせると、カツンと足に何かが当たる。
のぞき込んでそれを拾いあげる。税込み4860円の、特別な時に飲もうと思って初任給で買った未開封の酒だ。
特別な時なんてものは後になってわかるものなのだから。と誰かが言っていた。
現に俺はいまだこの酒を開けていない。特別な時が来なかったんだろう。
誕生日。友人の結婚。昇進。好きな野球チームの優勝。彼女ができた。今思い返せばどれも特別な日だが、この酒を開けるほどではないと思って開けてこなかった。
時間は深夜二時。なんだかその無音が寂しくてまた酒を呷った。
酒が回って頭がぐるぐるぐらぐらとする。
――けれどもほんたうのさいはひは一体何だらう。
本当の幸せが見つかればこの酒を飲む日が来るのだろうか。
けれど、この先きっとこの酒を開けることはないだろう。
「結局のところお前がいるときが人生の特別で幸せというやつだったのだなぁ」
そういって俺は写真の前のグラスに特別な時に飲もうと思っていたこの酒を注ぐ。
置かれたグラスとカチンと音を立てて乾杯する。俺は税込み1760円の酒で、彼女は税込み4860円酒で。
「幻想第四次銀河鉄道の乗車券がほしい」
やはり誰も答えてくれる人はいなかった。
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