第19話 獨行道
試合終了と同時にプロジェクターの映像は出力を即座に停止、ドローンは収容され、あたりを煌々と照らしていた照明がいっせいに落とされた。黒塗りの車は整然と駐車場を出て行く。
ここでさっきまで壮大な試合が行われていたとは信じられぬほど、あたりは元の静寂と闇を取り戻していた。
丼だおれのワンボックス・カーの内側に陣幕を貼りめぐらし、ひとりひとり賞金授与が行われた。
優勝の青山選手には賞金100万円、カイ選手には50万円が青具足に身を包んだユキトシから授与される。(こんどこそクールな絵が世界中に配信されているw)
副賞としてネオ・ツキジ衆から【ヨケ=オフダ】と数々の乾物海産品、こちらのプレゼンターは御札をもらってきた寿司屋の大将だ。
寿司屋の大将は、ここぞとばかりに自分の店【金亀寿司】と、ついでに【丼だおれ】を宣伝した。
記者は写真を撮ると勝利者インタビューを申し出た。
「青山選手おめでとうございます! 今の感想をお聞かせください。それと【ゼロ大会】の賞金100万円は何に使いますか?」
「勝ったことよりも、それより得られたことの方が、僕にとって大きいです。
このおカネと貯金を元手に、今回知り合った仲間たちと起業してみようかな、と……いや、ぜったい会社作って、ぜひこの競技をみんなで広めたいと思います!」
青山選手はカイ選手を呼ぶとグローブ・タッチをし、例の【腕組みポーズ】をツーショットで決めた。
黒の車列を送っていたヒラガ・クザブロウ議員が現れ、ユキトシに言った。
「いやーびっくりした。面白かったよ。お疲れさま!
【大臣】も【首長室長】もこの地に新しい名所ができそうだと喜んでおられた」
「えっ! そうだったんですか!?ヒラガ先生ありがとうございました!」
『あの車はやっぱり偉い人達のだったんだ。 俺ちゃん感激っwww』
今度はトーチカが大将を連れてきてこう言った。
「ユキトシ殿ぉ〜!!かたじけないのだ。トーチカ、すっかり朝に倉庫のモチヌシさんを紹介するの、忘れてたのだ……」
「え! 大将が倉庫の地主さんだったんですね……ご挨拶やお願いが遅くなって申し訳ありませんでした!」
「イイってことヨッ!! いやネ、丼だおれの店長がサ? 空き倉庫壊すゼニもねぇってんで困っててヨ?チョイとみんなで出し合って引き取ったってだけでナ~?
それよりアタシらの倉庫、また夢いっぱいにしておくんな!」
「トーチカも大将の店も【ヨビコミ】のおてつだいするのだ!」
「本当に、……お世話になりました。私も近くに住んでいるので、手伝わせて下さい……」
みんなが片付けに入っている。
泣きそうな気持で永田課長へと駆け寄った。
「永田課長、調査業務終了です、経済効果の兆しあり、で完了報告書を書きます!」
「ヒジリ君。 おつかれさま
消費・勝利・欲の
先にあるもの 即ちそれが天命
調査書 楽しみにしてますよ〜
た・だ・し!! 今後は〜 web会議を【活用】して 割り振って下さい ね〜」(ニッコリ)
コジロウから缶コーヒーを受け取ると、役人組3人揃って横並び、腰に手をあて【缶コーヒーの押忍】をいつになくうまそうに飲んだ。
さあ、大団円だ、といういい場面だ。
あの親子も、追跡者もマイたし、これ以上の結末は、ない。
と、その時だ。
紀尾井カスミが慌てたように叫んだ!
「大変です! ヒジリさん!」
「え? 今頃ここをかぎつけられたのか!?wwwww」
「いえ、ちがいます。これ見て下さい」
見るとユキトシの管理する【フューナラル・アラート】に紐づけされたSNSアカウントだ。
「ん? ……なんだぁこの数は。え? 全てサイバー剣術あての参戦表明だとぉおおおお!?」
協賛を申し出てきた企業を筆頭に、出番がなくて業を煮やしたであろうソウソウたる企業公式アカウントのロゴが並んでいる!
「【企業軍団】からの【サイバー剣術】への【参戦表明】か! あははははは!」
コジロウは高笑いした。
「な〜んだ……戦いはまだ始まったばかりかぁ……」
「んじゃ、ま、帰ったら寿司でも喰いに行くか〜!!」
『そういえば………【闇のリーダー】と【闇の組織】も見つかっていなかったんだ……』
―ヒジリ・ユキトシ調整官。東京から日本へ、仮想空間を独り行く道がまたはじまる―
【つづく】
Cyber Ancient World Games ~役人稼業のジミメンが仮想世界を大構築!~ kanemitsu @kyouyu
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