最終話緋色と唯と武人の行末
YUI
”演技に熱が入り過ぎてごめんなさい”
TAKE
”大丈夫”
”役に立てたかな?”
YUI
“もちろん!”
“ほんと、色々ありがとね!”
“頑張るね!”
“翼 緋色! 明日の希望のためにパンツァーGO!”
もう何度このやり取りを読み返したことか。
しかし、それっきり唯とのやり取りが途絶え、数日が経っていた。
マンションへ迎えに行っても、姿を現さず、学校でもここ数日姿を見かけていない。
友達の田崎さんに聞いたところ“仕事が忙しらしく”、彼女でさえもここ最近、連絡を入れても返事が返ってこないらしい。
(まさか、何かあったんじゃ……?)
不安に駆られた。一か月前に、自分がこんな気持ちになるなど、予想していなかった。
何度も連絡を入れようと思った。だけど、もし今仕事で大変な状況ならば、寂しいというだけで連絡を取るのは迷惑なのではないか。
【隊長! 来てくれぁたぁ! 嬉しいぃ!】
アプリを開けば、唯が魂を込めた翼 緋色が満面の笑みで迎えてくれる。
時間は午前3時55分。
既にアプリへは昨晩、膨大なデータがダウンロードされている。
そして迎えた午前4時。アプリの更新内容が反映される瞬間(とき)。
トップ画面に表示されたおどろおどろしい“殉職”文字が躍るバナーを、恐る恐るタップする。
【隊長! お願い! 僕とデートして!】
(ちょっと唯っぽさが出てるな……)
そんなことを思いつつ、イベントを進めてゆく。
概ね、内容は唯に聞かせれていた通りだった。
一人で最後まで戦い、そして燃え尽きた緋色は、隊長の腕の中で最後の時を迎えている。
【嫌だ! 僕、やっぱり死にたくない! もっと隊長と一緒に……助けて……助けて、隊長ぉ!!】
まるで、公園で聞いたアドリブそのままだった。シナリオが変更になったのか、もしくは別プランとして考えられていたのか。
でもそんなこと、武人の知るところではなかった。
ただ――役に立てたことが嬉しかった。
あの時、あの瞬間、唯のアドリブへ精一杯応えて良かったと思った。
「最高の演技だったよ、唯」
イベントを見終えた武人は緋色へそう語り掛けた。
ライトニングバロン
緋色、これで終わっちゃうのかな。俺は嫌だな……
#マイパン
#マイパン緋色嫁勢と繋がりたい
そうSNSで呟いて、奇跡を信じてへ眠りに就く。
「やっぱダメか……」
しかし目覚めて、早速スマホを覗いて落胆する。
拡散どころか、評価さえもされていない。タグで検索をかけても、緋色のコメントすらもみつからない。
やはりこれが現実。
頑張りや、思いが、結果につながることなど少ない。
(今日は逢えるかな?)
もしも落ち込んでいるのなら、せめて話ぐらいは聞きたい。
イベントの結果が出たのだから、もう連絡を取っても良い筈。
武人は数日ぶりに、唯へメッセージを流すことにした。
TAKE
“久しぶり!”
“迎えに行っても大丈夫?”
しばらく経ってから、唯より“ありがと。待ってるよ”との返事が返ってきたのだった。
●●●
マンションの前で待つこと数分。
8時過ぎになって、唯が出てきた。いつもと変わらないようには見える。どんな心持ちかは正直わからない。
「おはよ、武人くん」
「おう、おはよ」
いつもと変わらない、いつもの雰囲気の唯。もしかして、あまり気にしていないのか。もしくはまだ色々と知らないだけなのか。
「あのさ、」
「ん?」
「えっと、今まで色々、ありがとね。あと、結果出せなくて、ごめんなさい……」
唯は深々と頭を下げたのだった。そんな彼女の姿を見て、武人の胸が痛む。
しかしどう声をかけて良いか、分からない。
その時、唯の方から、電子音が鳴り響く。
「ちょっとごめんね……おはようございます。えっ? 今登校するところですけど……スピーカーフォンに? えっと……」
『唯! 今からアドレス送るからちゃんと見なさい!!』
スピーカーフォンから、朝っぱらうるさい市神さんの声が響き渡る。
そしてしばらく経ち、唯は目を見開いた。
「た、武人君! これみて!!」
唯は嬉々とした様子でスマホを掲げる。
そして武人も言葉を失った。
"生命力に溢れる緋色に感動した!"
"緋色を殺すな!"
"これからの押しは緋色に決定!"
"ですぴえろが大人になった!"
"白ですぴえろ爆誕!"
次々と湧き出る、そんな文字。脇の時間帯トレンドを表す項目にも、マイパンや緋色という文字が躍っている。
「これは……」
「もしかしたら、私達ちょっと早とちりしちゃったのかもね」
唯は恥ずかしそうに苦笑いを浮かべた。
その顔は晴れやかで、愛らしく、そして愛おしい。
「えっとぉ……翼 緋色上等機甲兵、無事帰還したよぉ! ってね」
元気そうな唯を見て、胸が高鳴った。
「たぶん、これで緋色は大丈夫。全部、武人のおかげだよ。ありがとう!」
「よかったね。ほんと、これで……」
「あ、ちょ、ちょっと、泣かないで!!」
恥ずかしさなんて糞くらえ。嬉しいときに泣いてなんぼのもん。
当の本人よりも、嬉しくてたまらなかった武人は涙を流す。
しかしひとしきり泣いたところで、ふと思うことがった。
この唯との“特別な関係”は、緋色を殉職イベントから救うためのもの。
おそらく、無事にイベントを乗り越えられたのだから、人が唯と一緒にいる必要はなくなった。
"特別な関係"でいる必要はない。
それは唯にとって緋色生存という嬉しいことである反面、自分がお役御免になること。
少し寂しい気がする。
するとふわりと甘い香りが鼻をかすめる。気づくと唯の顔が真横にあった。
唯は武人の耳元で、
「これでおしまいじゃないよ」
「えっ?」
「だってこれ、武人くんとの成果だもん」
唯は目にうっすらと涙を浮かべて、頬を赤らめながらこう言った。
「これからもどうか緋色と私の傍に居てね、小津隊長!」
“特別な関係”はまだ続けても良いらしい。
そう解釈する武人なのだった。
「ねぇ唯」
「ん?」
「なんで暫く連絡取れなかったの? 全然既読付かないし」
「えっとね……実はスマホ、トイレに落としちゃって。ばたばたしてたから修理の暇がなくて……」
「おっちょこちょい」
「もう、だからごめんって!」
唯は可愛い。改めてそう思った。
*これにて完結です。ありがとうございました。
残りのプロットは、他作品に生かしたいと思います。
それではまた別作品でお会いしましょう
押しラキャラの投稿を続けたら、中の人(同級生の美少女)が釣れて、“特別な関係”になりました。 シトラス=ライス @STR
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