第5話 図書室

その日は図書室で本を読んでいた。


シェルターの設備のひとつである図書室は、実用書から

文学、漫画に至るまでありとあらゆる書物が集められている。


そのほとんどは閉架式で、書庫は地下まで続いているらしい。

大部分はAIによる管理で読みたい本を自動で出してくれるし、

返却、整理もAIが行っている。


メンテナンスと維持は少女がおこなっていて

「大図書館の番人、ライブラリアン!」

と、ドヤ顔で言ってた。


図書室の閲覧スペースはほの暗い灯りがついていて

読書にはぴったりの環境だ。

今日はお気に入りの作家の本を読むことにしていた。


しばらくして、少女もやってきた。



「やほー」

「おー、おつかれ。」

庭園での仕事を終えたようだ。


「今日は藤子作品にしようかなー」

出納システムを操作しながら少女がつぶやく

「どっちの方?」

「うーん、Fの方。」

「少女は好きだよね。藤子F不二雄作品」

「まあねー。青いネコ型ロボットは大先輩だと思ってるよ」

わたしのイメージカラーと同じだしね。と少女。


しばらくして、本が用意できると

少女も向かい合った席に座り、読み始めた。


しばらくページをめくる音だけが聞こえる。


「そういえば、少女はけっこう本好きだよね」

ふと気になったことを聞いてみた。

「うん、好きだよー」

手元の本に目線をむけたまま少女が答える。

「図書室の本はほとんど読んじゃった。」

マジか、聞いた話だけでも莫大な量があるぞ……


「少年が眠ってる間、時間だけは膨大にあったからね」


眠っている間……。コールドスリープのときか。

結局自分がどれくらいの間眠っていたかは、聞かされていないのだが

相当な年月だったのはなんとなくわかる。


「そりゃ、待たせて悪かったね」

「んーん、そんなことないよ。待つのも楽しかったし。」


いっぱい本読んだりできたしね。と、

顔をあげながら少女がこたえる。


「あ、でもね」


少女がこちらに手を伸ばしながらつぶやく。


「今が一番しあわせ。こうして君とお話出来るし。」


ずっと一人で待ってたからね。

と、少女の瞳が僕を優しく見つめている。


青い瞳。片目は少し緑がかかっていて。

オッドアイとかいうんだったか。


ふと、ひきこまれるように見つめる。


「あと、ある意味世界で一番少年の寝顔に詳しい女の子かな、わたしは。」

毎日見にいってたし。と、いたずらっぽく笑う。


なんとなく気恥ずかしくなって手元の本へと、目をそらす。

数秒思案した後……。


「じゃあ、僕は世界で一番少女の寝顔に詳しい男になるよ。」

なんだか悔しくなって言ってみた。


「やだ、なんだかえっち」

「えっちじゃない。」

「えろえろ~」

えへへー、と笑う少女。


「ま、早起きさんのわたしの寝顔を覗くのは少年には無理かな~」

少女はすました顔でそう言った。


「さ、図書室ではお静かにだよ」

ふたたび手元の本に目を戻す、少女。

うまくごまかされてしまったようだ。


自分も読書を再開した。

その日は一日のんびりと本を読んで過ごした。

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世界の終わりで可愛いアンドロイドとなんだかんだのんびり暮らしてます 熊野こどう @kumanokodou

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