異世界に転生したけどはやくおうちにかえりたい

哲学徒

第1話 転生

「しまった遅刻だ!」

僕の名前は真(まこと)。高校三年生。目下遅刻寸前です!

「こんなときに赤信号!?」

学校の前の信号に捕まってしまった。あとちょっとで間に合うのに。無情にも始業のチャイムが鳴り始めた。チャイム鳴り終わりまでに教室に入ればセーフだ!

「うおおおおおおおおおお!」

信号を無視して横断歩道を渡る僕に天罰の大型トラックが突っ込んできた。


「うん.....」

ふと目を開けると、飛び込んできたのは知らない顔たちだった。

「おお!生きていたか!」

しわがれ声のおじいさんが声をあげる。

「若者だ!」

「若者がこの村に来たぞ!」

「これで安泰だな」

色んな人たちが好き勝手に喋りだした。

「ここはどこですか?」

確かトラックに轢かれたはずだ。でも病院ではなさそうだ。

「おお、若者よ。お前は村の古井戸の中で倒れていたのだよ」

「村?古井戸?」

僕の住んでる町は、村ではないし古井戸もない。

「ここはドルオの村。皆で君を歓迎する」

周囲の人たちが歓声をあげる。

「家に帰りたいんですが」

「さ、パーティーだ。ああ、沢山酒を持ってきてくれ。ごちそうもだぞ。そっちの机を外に出そうか」

聞いちゃいない。とにかく家に連絡しようとポケットを探ったが、端末がどこにもない。

「あのう、電話お借りしてもよろしいでしょうか?」

「デ......?あー、もっかい言ってくれ」

「ここはどこでしょう」

「ドルオの村だよ」

「日本の何県ですか?」

「ニ......?聞いたことねえよ。座ってな」

追い払われてしまった。どうやらパーティーの準備が終わるまでまともに相手をしてもらえないらしい。

「ああ、僕どうなっちゃうの......」

ベッドに腰かけて、古ぼけた梁を見上げながらため息をついた。


村の広場でパーティーが開かれた。パーティーというかどんちゃん騒ぎだ。机を出し、かがり火を炊いて、ご馳走と酒に舌鼓をうつ。

「お前さん、名前は?」

「真です」

「ま......」

「まこと」

「真か!いい名前だ!」

酔っぱらいの爺さんが絡んできた。

「まあ一杯」

「未成年です」

「なんだ飲まないのか」

「それより家に帰りたいんですが」

「まあ聞け、この頃よくあることだ。お前は違う世界に来たんだよ」

「はあ?」

「最近あちこちでそういう者が出てきてる」

「なんですかそれ。帰れるんですか?」

「帰れたって話は聞かないな」

「そんな」

「まあ、最初に言ったように村に歓迎するよ。このパーティーだってお前のためのものだ。ずっと居ればいい」

「本当ですか?」

「ああ。俺はこの村の村長だ。よろしくな真君」

「こちらこそよろしくお願いします!」


騙されたと気づいたのは次の日のことだった。朝早くから水汲み、家畜への餌やり、掃除、洗濯、畑の草抜き、肩もみなどなど......村中の爺さん婆さんからこきつかわれる。

「いやあ、若い人がいると違うねえ」

「ほんと助かるよ」

と笑顔で言われるが、その笑顔のまま休憩なしで働かされる。


「酷いじゃないですか!」

「なにが?」

とうとう村長に訴えた。

「この村には若者がいないんでね。助かるよ」

「僕は全然助かりません!」

「若者は......みんな魔物に喰われちまったんだよ」

「魔物?」

「魔物だ。昔は人間と共存できる存在だったんだ。ある時期を境に、数が増えて狂暴になり、村を襲うようになった。ワシらはそれをどうにかするため、交渉し、若い娘を生け贄としてささげるようになった」

「ええと」

「若い娘をささげることに反対して、魔物を倒しにいった若い男たちも帰ってこなかった...」

「はあ」

「ああしかし、もうすぐ生け贄の時期なのだ。村にはもう若い娘などいないのに......」

「......」

「生け贄がいなければ、この村もおしまいじゃ」


「すまんな若者。こうするしかなかった」

「ムグムグ」

女物の服を着せられ、縄でぐるぐるに縛られ、頭に藁で作ったカツラを被せられてしまった。

「恨むなよ。皆のためだ」

木の板に乗せられ、担がれて村外れの森まで運ばれる。

「これでまた一年寿命が伸びる」

「若者様々じゃあ」

「また来年までに一人来てくれないかなあ」

「まったくだ」

好き勝手な言葉をあびせられながら、森の中に置き去りにされた。

「ムゴーッ!」

あんまりだ。こんな村滅んだ方がいい。恨むなよと言われたが、恨む。ああ、こんなことなら二度寝せず早起きしていれば......ああお母さん......

「!」

物音がする。茂みの影から丸い光が見える。魔物だ!

「ムムーッ!ンゴーッ!!」

暴れても拘束はびくともしない。クソッ。

茂みの方からなにかがこちらに向かってくる。

「ウウーッ!!」

光が近づいてくる。もうダメだ。目を瞑る。ひときわ生臭い臭いが鼻をつく。と、なにか冷たくてべたべたしたものが顔を走った。

「!?」

目の前にいたのは、人懐こそうな顔をしたドラゴンだった。








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