制服
宇佐美真里
制服
桜の花の舞い散る下…いつものバス停。
「うるせぇや…」
穏やかでないその言葉に振り返ると
いつもと違う光景…。
真新しい制服姿の二人。
手に持った学生鞄はピカピカとまだ傷一つついていない新品だ。
着慣れない幾分大きめの制服を着た新中学生…。
「学生服に着せられてるみたい…」
そう言って笑う女の子の方も、
人のことを言えるほど似合っているわけではない。
「うるせぇや…おまえだって…」
もう一度同じ言葉で反論する男の子。
その顔は何故か女の子に合わせられずにいる。
思わず僕は微笑んだ。
***
僕が初めて制服を着た時もこんな感じだったのだろう…。
初めての詰襟は息が詰まる思いだった。
隣に住む同級生の姉さんは僕の憧れ…。
ランドセルを背負っていた僕に
いつも優しくしてくれた制服姿の姉さん…。
同じ姉妹なのに、どうしてこうも違うのだろう?
妹の方は、スカートなど穿いているところも見たことがないくらいの
ただ元気なだけが取柄の様な感じだった。
ただ家が隣だったというだけで、
僕のすることに何から何までとやかく口を出す…。
「ダメねぇ~」それが彼女の僕に言う口癖だった。
僕には煩わしい存在…。
それに引き替え姉さんは彼女とは正反対だった。
小学生の僕にとって、
まだ中学生に過ぎない制服姿の姉さんは
とても大人に見えたんだ…。
入学式の朝。
僕はこれから毎日着ることになる学生服の詰襟に、
そして毎日の生活に息の詰まる思いだった…。
姉さんは僕らの入学を前に卒業…。
ほとんど唯一楽しみにしていた姉さんと同じ通学路。
そんな細やかな期待も崩れ、溜息交じりの入学式…。
とぼとぼと独り通学路を辿っていく…。
「学生服に着せられてるみたい…」
聞き慣れた声…。
後ろから掛けられた冷やかしの言葉に
僕は振り返りながら言った。
「うるせぇや…おまえだって…」
振り返った瞬間、思わず僕は息を飲んだ…。
あれ?卒業したはずなのにっ?!
いや、そんなことはない。
よく見れば、真新しい制服に着せられた同級生…。
「うるせぇや…おまえだって…」
そう言いながら僕は、彼女の顔を何故だか直視できなかった…。
この前までランドセルを背負っていた同級生。
たかが制服を着ただけなのに…、
今まで煩わしい存在にしか感じなかった同級生が…
何故だか、とても大人に見えたんだ!
「ぶかぶかで七五三みたいじゃん…」
弱々しく反論してみても何のダメージにもならない。
「ダメねぇ~」
彼女はまたいつもの口癖を言いながら、
僕の背中を真新しい学生鞄で叩いた。
「もっとしっかりしないと!もう中学生なのよ?」
そう言いながら僕の隣に並んで歩き出した…。
***
そう…。それはもう四年前…。
桜の花の舞い散る下の通学路での出来事。
四年経ち、同じく桜の花の舞い散る…バス停で見かけた光景。
「うるせぇや…おまえだって…」
あの時の僕と同じ言葉を口にする中学一年生の男の子に、
僕は思わず微笑んだ。
「どうしたの?ニヤニヤしたりして?」
振り返るとそこには、彼女が…。
あの時とは違う制服を着る…
僕の『彼女』がそこには立っていた。
-了-
制服 宇佐美真里 @ottoleaf
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