2章-1
「天地が分かれ神が生まれてから何代か経ち、イザナギノミコトとイザナミノミコトという男女一組の神が現れた。2人は高天原から鉾を降ろし、かき混ぜて島を作り、そこへ降りて行って多くの神々を生んでいった。しかし、イザナミは自分の生んだ火の神に焼かれ、死者の国である黄泉の国に行った。イザナギはイザナミのことが忘れられず、黄泉の国へと会いに行った。そこで見たイザナミの皮膚はただれ、うじがわき、二目見られない姿になっていた。」
来年定年を迎えるという、背が低く腰の曲がった男性教師はこちらに目を向けることなく、淡々と倫理の教科書を読み上げた。
『いっしょに死んでみない?』
彼女の口から告げられたその言葉はまだ耳に強く焼き付き、離れない。
あの後予鈴と共に逃げる様に彼女の前を立ち去った僕は、無機質で冷たく、重たい空気の広がる教室で5限の授業を受けてる。
「死にたい」あの蒸し暑い屋上で確かに僕はそう思った。
手元に広げた倫理の教科書によれば古代日本で死は穢れとして扱われたらしい。
しかし、あの時の僕にとってそれは間違いなく救いだった。
初めて抱いた感情に惑わされている内に、下校を告げるチャイムが鳴る。陽が傾く中、各々が帰途へつき始める。
「清水くん。」
頭の中に立ち込める健康とは言い難い感情へ光を差すような透き通る声。前を向くと屋上で出会ったあの女の子が立っていた。
白崎凛。屋上では気が動転し気付かなかったが、彼女は隣のクラスの生徒だった。
この学校では珍しい社交的で明るい性格の持ち主で、友達も多い。
写真に写っていた元同級生のような人物。僕とは対極の人物。
なぜ彼女はあの時、あんなことを言ったのか。そんな疑問が浮かぶのと同時に、彼女が口を開く。
「これから、私の家に来ない?」
Youth of summer ゆめせかい @koichi_katayama
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