第16話 マンネリはダメ絶対
「ねえ。ブサ村くん」
「おい。間違えるな」
ここ数日で聞き慣れてきた透明感のある声に罵倒された。言わずもがな雪女こと桜宮の美声だ。容姿と声は良いのに中身がとても残念な生物である。
「あら失礼。呆けた顔があまりにもブサイクだったものだから」
「お前さぁ……本当に性格悪いよな……つーか、なんか用か?」
「ええ。ブサ村くんにどうしても聞いておきたいことがあるの」
桜宮はいつになく神妙な表情でそう切り出してきた。だからブサ村って言うな。
「なにを?」
「ここ最近の『いもパン』の展開についてどう思う?」
「完全にマンネリ化してるな。もう惰性で読んでるわ」
「やっぱりそう思うわよね」
「いや、いきなりヒデヨシが『実は人間と邪神族のハーフだった』とかネタバレされてもこれまでそんな伏線なかったし、だいたい邪神族の設定自体がフワッとしてるからなにをやってもご都合主義になるだろ。最近は日常パートもサクラかハルコとイチャイチャするのを繰り返すだけでストーリーに起承転結がなさすぎ。ハルコのヤンデレ設定をもう少し押し出してもいいとは思うけどすでに手遅れだろうな」
ちなみにハルコとはヒデヨシの幼馴染だ。作中でも屈指の幸薄キャラで、一部のファンには愛をこめて『ウスコ』とも呼ばれている。
「とても悔しいのだけど私も同意見よ。マンネリが続けば作品を殺すことになるわ」
「もうここら辺でサクッと終わらせるか作風をガラッと変えるって英断が必要だろ」
俺の言葉にうんうんと頷きながら桜宮はなにか思案するようにアゴに手を当てる。
「……やっぱりマンネリはダメよね。私たちの活動にもメリハリが必要だわ」
そして、ニヤリと冷たい笑みを浮かべると囁くようにそう呟いた。
「おい桜宮! 絶対ろくでもないこと企んでるだろ!」
あの表情はダメなやつだ。絶対よくないことが起きる気がする。俺の身に。
「静粛に。これから本日の活動内容を発表するわ」
「えーなになに?」
「……あっ、はい」
その声に反応して水原と百合ヶ崎が顔を向けると、
「我々アンチラブコメ倶楽部は――他の部活にバトルを申し込むわ!」
何故か満足げな表情で水原はそう宣言した。
「待て待て。急展開すぎてついていけないから」
他の部活とバトル? こいつマジで頭おかしいの?
「あら。ガラッと変えたほうがいいと言ったのは花村くんでしょう?」
「あれは『いもパン』の話だろ! 部活動には変化を求めてねぇよ!」
「やれやれ。考えてみなさい。ラブコメには意外とバトル展開が多いと思わない」
「まあ……確かに多いな」
多いというか、むしろラブコメではテンプレだ。登場人物たちがバトル展開を協力して乗り越えることで絆が深まって、関係性にも変化が起きるのをよく目にする。
「そうでしょう? つまりこれはラブコメ的なバトル展開の研究を目的としたフィールドワークよ。だから部活の趣旨にも反していないわ。ただ部室にこもって読書をするだけの不健康な活動よりは有意義と思わない?」
「ものは言いようですね」
誰よりも率先してラノベ読んでた人間の発言とは思えない。
「水原さんと百合ヶ崎さんは問題ないかしら?」
「アタシは別にいいよー。なんか面白そうだし」
あからさまに興味なさそうな水原が間延びした声で答えた。
「……あの……澪はお二人が一緒なら……」
相変わらずオドオドした様子の百合ヶ崎もそれに同意する。
「花村くん。多数決という言葉の意味を知っているかしら?」
「あーはい……もういいよ……一緒に行けばいいんだろ……」
渋々な俺の返事を聞いてから桜宮はパンっと手を叩く。
「よろしい。それでは私についてきなさい」
そう言ってスタスタと歩き出す桜宮の背中を三人で追いかける。
そんなわけでやたらとやる気満々の部長に引きつられて、我々アンチラブコメ倶楽部は初の対外試合に臨むことになりました。なにこの桃太郎的な展開。
アンチラブコメ倶楽部 夏井優樹 @SUMMER_KID
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