父のこだわり
また今日も父宛ての小包が届いた。開けなくても中身はわかる。
俺が社会人になった頃から父は通販で薬を買うようになっていた。
西に毛根に効く薬があると聞けば問い合わせ、東に髪が抜けにくくなる薬があると聞けば通販サイトを開く。いつしか洗面台の前では出勤前に父がブラシで頭を叩いているのが恒例になっていた。
「しかしなあ……」
言っては何だが抵抗は無駄だと思う。俺も息子として髪の毛が薄くなるのは不安だが、いざその時が来たらあそこまで躍起になるものだろうか。
「お父さん。いい加減諦めなよ」
「諦めたくはないんだ。一本の毛にも五分の魂だ」
「聞いたことないぞ、そのことわざ」
「気にするな。さて、これ使ったら一緒に仕事に行くぞ」
「了解」
俺が小包を渡すと父は小躍りしながら部屋へと向かった。その後ろ姿に俺は首をかしげる。
「必要なのかなあ……坊さんなのに」
剃るのは良いが抜けるのは嫌らしい。
万葉雑話集~今日も一話の別世界~ 結葉 天樹 @fujimiyaitsuki
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