ふたりの時間

 付き合っていた彼と別れて数か月。仕事が終わってただ帰る日々が続く。

 毎年思い出を作ろうと言っていた彼はもう隣にいない。

 紅葉のシーズンもとっくに終わって冷たい風が街に吹いていた。

 こんな肌寒い日は彼が身を震わせる私にコートをかけてくれたことを思い出す。

 ぶかぶかだけどあったかいコートに包まれて、あまり好きじゃなかった冬が少し嬉しい時間になった。

「寒いなあ……」

 そう口にしても、もう誰もコートをかけてくれない。

 なんだか胸が痛い。ああ、これが別れたってことなんだなあ。

 したかったこともいっぱいあるのに、大好きだったのに。どうして別れちゃったんだろう。

 嫌いになったわけでも、どちらかが浮気したわけでもない。

 二人の時間が合わなくなって、すれ違って、上手く行かなくなってきただけだ。

 ふと、スマホの画面を見る。まだ彼のアドレスは消してない。

「……未練だよね」

 削除へ指を置こうとした――。

「わっ!?」

 その瞬間、スマホが震えた。ディスプレイに表示された名前は――。

「も、もしもし」

「あ、よう……今、時間あるか?」

「……少しだけなら」

 久しぶりにできた共通の時間。何を話したらいいかわからない。でも、何かを話したかった。何かを話せたら。そう思って私は待ち合わせの場所へ歩き出した。

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