言われたいから言わせたい

「テルせんぱーい」

「なんだ、加奈?」

 私は頬を膨らませながら先輩の肩を突っつく。参考書を読んでいたテル先輩は視線を変えずに返事だけを返す。

「わたしたちー、付き合ってるんですよね?」

「ああ」

「だったら、たまには言ってくださいよ」

「何を?」

「『愛してる』って」

 背が高くて優しくて頭もよい、私の大好きな先輩。ちょっと古風な性格なのであまり口に出して好意を伝えてくれない所が唯一の欠点だ。

「断る」

「なんでですかー」

「恥ずかしい」

「いいじゃないですか。私と先輩しかいないんですよ」

「それが恥ずかしいんだよ」

「むー」

「そもそもお前は気軽に言えるのか?」

「まー、私も恥ずかしくはありますけど……」

 なんとなく、「好き」より「愛してる」の方がハードルが高い。

 だけど恥ずかしくても言って欲しい。二人で言い合って照れくさい雰囲気を一緒に味わいたいんだ。

 ふと、何とかできないかと思っていた私に、あるアイデアが浮かんだ。

「テル先輩、私のことさん付けで読んでもらえます?」

「構わないが……加奈さん」

「わんにん、かなさんどー」

「は?」

 テル先輩が首をひねる。自分で言った言葉の意味も分かっていないみたいだ。私はその意味をスマホで教えてあげる。

「沖縄の言葉で、『愛してる』……って、おい!?」

「なのでー、お返しに私もわんにん愛してるかなさんどーって返しました」

 直接言うのは恥ずかしいけど、方言ならちょっと頑張れば私も言える。

 動揺したテル先輩の顔が真っ赤になった。こんな表情はめったに見れないからいっぱい堪能してやる。

「はい、テル先輩もう一度。今度はもっと感情を入れて!」

「ぐ……その前に、『私はテル先輩を見ています』って英語で言ってみろ」

「いいですけど? アイシー、テ――」

 私は慌ててわてて口を押える。最後まで口にしかかった言葉を慌てて飲み込んだ。

「先輩ずるい!」

「だから恥ずかしいって言ってるだろ!」

 その後、私たちの間で方言や他言語を利用したやり口は禁止になった。

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