【第7話】隠された真実Ⅰ
──即死
人間がこの状況に陥るのは、想像しているよりも遥かに難しい。
殆どが身体への耐え難い衝撃、脳天を貫く鋭い一撃などの外的要因であり、例え心臓を貫かれようと四肢の一部を損傷しようと即死には至らない。
だが、これらに該当せずとも人間を即死させるケースが実在する。
条件さえ揃って仕舞えば、触れずに、音も立てずに、傷一つ残さずに、死んだことすら気が付かせずに────……
「 ≪
ティーカップを机に置いた理事長の口から発せられた低く冷たい言葉は、シオンに恐怖の感情を抱かせると同時に、≪
「──っ!」
刹那、シオンにより展開された不可視の空間──≪領域≫は、この場に生じている異常を即座に捉える。
空気圧、温度、気体濃度。
詳細を数値で表現するのは難しいが、どれもが異常な状態であるのは間違いなく、もし誤ってそこへ足を踏み入れて仕舞えば恐らくは、いや、確実に死に至るだろう。
しかし、反射的に発動したシオンの≪領域≫の内側はどういう訳か正常な状態を保っており、それはまるで≪領域≫の内と外で異なる空間が存在しているかの様だった。
「なるほど、これが噂の絶対領域……絶対支配の異質な力。彼らが王の称号を与えたのも頷ける。雅が言ったことは本当だったのだな」
机の横でただ立ち尽くしていた理事長が口を開いた直後、≪領域≫が捉えていた異常は消えていた。
あたかも最初からなかったかのように。
痕跡もなく。
「試しましたね……あなたの力はこんな茶番に使っていいものじゃない。それじゃ日本最強の示しがつきませんよ、理事長……いや、
故に、
それよりも、かつての上司である将貴が行使する≪
が、当の本人はそれを気にする様子もなく、静かな微笑みをシオンに返した。
「確かに私は君を試した。それは謝ろう。ただ、その呼び方はやめてくれ。今日は理事長として此処にきている」
「…………」
「なに、そんなに警戒しなくても良い。後は頼んで良いか、雅」
話を振られた雅は、壁に寄りかかり、腕を組みながら大きく頷く。
「ごめんね。パパに協力してもらうにはシオンの実力を証明するのが早かったのよ。
それに知りたいんでしょ? 未来のこと」
何を企んでいるんだ?
シオンは口に出さなかったものの、心ではそう思っていた。
無論、誰でもそう思うだろう。
ただ単に要件を話すだけであれば、先ほどの茶番は必要ない。
頭の中で整理が出来ていないシオンに、追い打ちをかけるように雅は告げた。
それはそれは、新たな混乱を生む話を。
「シオンは天音 澪央に殺されて、気が付いたら
「……ああ、そうだ」
「よかったわ。未来のシオンもそう言ってたから」
「未来の……?」
「うん。私はね……天音 澪央に殺されたあなたが過去に戻り、これから歩もうとしている未来──そこから来たのよ」
リバース・テイル 羽音 ことり @gunmtr
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