【第6話】束の間の一時Ⅱ
「シオン……ねえ、シオンってば!」
シオンと共に中庭から
もちろん、シオンにその声は届いていたが、腕の中に隠すように持っている紙袋のせいで足を止められる訳もなく、駆け足ながらにお互い言葉を交わした。
「さっきからなんだよ! いいか、この紙袋を持ってるだけで危険なんだ。
しかもプリンは原則一人一つまでのはずが、三つも……誰かにバレたりでもしたら、俺の高校生活がマジで終わる。お前は分からないかもしれないけどな──」
「分かってないのはシオンよ! ……あーもう。こっちに来て!」
「ちょっ、おい!」
なにやら痺れを切らした様子の雅は、半ば無理矢理シオンの手を引き、進行方向を九十度左へ変更し、本棟へと足を運んだ。
──時間にして、約五分。
先導する雅に連れられたどり着いた先は、シオンが予想もしていない場所だった。
本棟一階の奥。
厳重なセキュリティに管理され、一部の関係者のみ立ち入りが許可されたエリア。
そこにためらいもなく進む雅は、突き当りにそびえる大きな扉の前で立ち止まる。
雅は次に、扉の横に備えられたセキュリティーシステムに手をかざし、自分の掌を読み込ませた。
最新型かつ高性能な生体認証タイプのセキュリティは数秒の沈黙の後、ピコンといかにも機械らしい音を上げ、次の音声を発した。
『ハイザキミヤビサマ。ドウゾナカヘ オハイリクダサイ』
静かな廊下に響き渡る音声と共にカチャっとロックが解除され、扉が自動で開く。
開ききった扉の先に見えるは、広さ二十畳ほどの書斎。
白く、書斎にしては豪華な内装で、とは言え、不必要なものは何も無い至ってシンプルな部屋。
奥の窓際に設置された木製の大きなデスクには、最新の機材が数点と、そこに腰掛け、物静かにこちらを見つめる男の姿がシオンの瞳に映る。
「──!?」
シオンと男と視線が互いに交わったその時、シオンは自然と頭を下げ、一言だけ定型的な挨拶を送った。
「……はじめまして、理事長。私は神月 シオンと申します」
シオンが理事長と呼んだ男は雅、次いでシオンに視線を移した後、ゆっくりと腰を起こし、口を開いた。
「ご丁寧にどうも。だが、はじめまして……ではないのだろう? 雅から色々と聞いているよ」
「…………それはどういったことを……」
「なに、隠さなくても問題はない。君と雅は、未来から来た。という事であっているかな?」
シオンは驚いた。
別に隠していた訳ではないにしろ、自分と雅だけの秘密を
「信じた……のですか? そんなあり得ない話を……」
「そうだな。私とて初めは信じていた訳ではない。
しかし、本来知り得ない情報をベラベラと口にしたり、ランクCだった雅がある日ランクAに違わない実力を身につけたりと……
そんな光景を目の当たりにすれば、信じざるを得ないだろう。それに──」
何かを言おうとした理事長は、一度小さな咳払いをし、年甲斐もなく恥じらいの表情を浮かべて言葉を口にした。
「かわいい娘の言うことを、親は信じるものなのだよ」
齢四十後半とは思えないほど
シオンは口にしなかったものの、密かにそう思い、笑みを浮かべた。
「互いの自己紹介は良いだろう。私も君のことは娘から良く聞いているからね……それでは本題に入ろうか──」
理事長は机の上に置かれているティーカップを手に取り、紅茶を一口
そして──
理事長がティーカップをゆっくりと元の位置に戻した次の瞬間、シオンたちがいる学園内で最も安全であろう空間は、この学園で最も危険な空間へと変貌を遂げた。
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