────White Room──── 彼女は白の少年の夢を視る
揣 仁希(低浮上)
第1話 少年とわたし
その日はいつもに増して暑い日だった。
朝のニュースでは今年一番の暑さだと、ピシッとスーツを着たニュースキャスターが涼しげな顔をして言っていた。
何ともまぁ説得力に欠ける話だ。
そんな朝のニュースを思い出しながら私はジリジリと焼ける様なアスファルトの上を、会社へと急いで歩いていた。
別に遅刻しそうだとか、そんな訳ではない。寧ろ時間は充分過ぎる程に余裕がある。
始業開始が9時だからあと優に2時間はある。
それでも私は急いで会社に向かわなくてはならなかった。
私、
オフィス街の丁度真ん中辺りにある銀色に輝くビルがそれだ。
琴坂IS(information society)。
それが私が勤める会社の名前。
朝のこの時間は夜勤の従業員がまだ働いているので、正面入口は開放されている。
私は馴染みの守衛さんに手を振りエントランスを通り抜け、エレベーターホールへと向かう。
目指す階は最上階の32階だ。
銀のビルの側面を滑る様にエレベーターは上がっていく。目に映る街並みがどんどんと広がり、人が米粒の様に小さくなっていく。
32階のホールには扉がひとつあるだけだ。
他には何もない。
エレベーターを降りて、ほんの1メートルのところにある民家の玄関の様な扉。
にも関わらずセキュリティは万全。
監視カメラがジジジっと私を追いかけている。
扉の横にある顔認識システムと指紋認証をパスして、私はその部屋へと入る。
そこは形容するなら、白い空間だ。
だだっ広く60畳はあるかという空間にあるのはベッドと机、椅子が2つだけ。
私はヒールを玄関で脱いでベッドに歩み寄る。
もそもそと真っ白なシーツが身動ぎする。
それを見た私は……一気にシーツを引き剥がした。
「社長!!朝ですよっ!起きて下さいっ!!」
「ふぁっ!?」
「おはようございます。社長!」
「……あとごふん……」
ベッドの真ん中で丸くなっている白髪の少年がそう言って顔を私に向ける。
真っ白な髪に真っ赤な瞳、透き通る様な白い肌、女の子と見間違う様な綺麗な顔。
「ダメですっ!ちゃんと起きるって約束したじゃないですかっ!」
「……なかったことに?」
「社長っっ!きゃっ!」
「ふへへへ〜まくらまくら〜」
「こらっ!ちょっ!やめてください!しゃ……あ、んっ!もうっ!」
私に抱きついてベッドへと引きずり込み、胸に顔を埋める彼につい甘い声が出てしまう。
「ちょっとだけ……ねよ?わこ」
「もう……ちゃんと起きてくださいよ?」
「うん!」
彼の白く細い指が私のブラウスにかかる。
しゅるしゅると衣擦れの音が聞こえる。
そして生まれたままの姿の私に、彼は天使の様な笑顔を浮かべ覆い被さる。
しなやかで細い指が私を愛撫する。
はぁっと漏れる吐息は私か彼か。
蜜が濡れる音はきっと私。
くすりと小さく笑うのは彼。
その白い肌はどこまでも美しく。
そして私を求める。
「あ〜気持ち良かった」
「……そ、それは……良かった……で……す」
「あれ?わこは気持ち良くなかった?」
「はぁはぁ……気持ち良かった……でっ」
私に覆いかぶさったまま彼が満面の笑みを浮かべてそう言い、指先で私の胸をなぞる。
「あ……っっ社……はぁっはぁ……」
「ここでは凛でいいって言ってるでしょ」
重さを感じない彼、凛はくすくすと笑いふわりと私の上から飛びのく。
椅子に座って、凛は変わらない笑みを浮かべたまま私に問いかけ私はいつも同じ返事をする。
「じゃあお仕事しよっか」
「……あと5分お待ちください……」
と。
これが彼と私の1日の始まり。
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