浮気男の場合

なんでこうなった。


見上げる五階建てのビル。


その屋上には俺の彼女。


『本当にやってやるから!!』


そう叫んでいる。 


まじで、何してんだ真弓。


と言うかなんで今時屋上に入れるビルがまだあるんだ。



『なんとか言いなさいよ浮気野郎!!』


浮気野郎とは言わずもがな、俺だ。


周りにはギャラリー。

こんな状況で不謹慎だが少し恥ずかしい。


『ごっ、ごめんっ!!』


俺も真弓に向かって叫ぶ。


『あたしの5年返してよ!!』


そう、真弓とは5年付き合った。


付き合い当初は27歳。気付けばお互い32。


アラサー女の5年は重力より重い。


それを踏みにじってしまったのだ。


だけどなぁ?一時の気の迷いなんすよ。


だって5年間同じ店で同じメニュー食えますか?

5年乗ったら違う車乗りたくならないですか?


例えはどうあれ、この状況はやばい。


『なんとか言ってみろって言ってんのよ!!』


さあどうする。


言葉を違えば真弓はまじで飛びそうだ。


遺書もスマホに残しているらしい。


やばい。


『す、すみませんでした!!』


はるか上空にいる相手に向かって俺は土下座した。

なんだか滑稽だ。


『そうゆうことじゃないのよ!!』


じゃどうゆうことなんすか。

まじで、正解教えてください。

 


『あと一言気に障ること言ったら飛ぶから!!』

 

ずっと気に障ってたんすか?

まじで女心わからん…。


『ほら!あんたなんか言いなさいな!』

隣で見てた野次馬のおばさんが声をかけてくる。


いや、あんたが正解教えてくれ。

曲がりなりにも同じ女だろ。


『誰かに相談しても飛ぶから!!』


ヒントをもらうことすら許さないらしい。八方塞がりです。


『さん、にー、いち!!』

真弓は勝手にカウントをとる。


『けけけけけ結婚しよう!!』


『ぜろ!!』

真弓は一歩踏み出し、体が宙に浮く。


その瞬間、俺は能力発動した。



タイムリープ!!



時間は5秒戻る。


『さん、にー、いち!!』



『い、いちもつを切ります!!』


『ぜろ!!』


またダメだ!!タイムリープ!!



『さん、にー、いち!!』


どーせいって言うんだよ!?

わかんねえ。


『俺もそっちに行かせてくれ!!』


『…』


お!ぜろがない。成功だ!



『…早く来なさいよ!』


俺は急いでビルに入り、迷惑そうな飲食店や貸し金業のテナントの方々に頭を下げ、屋上に上がる。



『それ以上は来ないで!!』


真弓は俺が近づくのを許さなかった。


『…わかった。』


俺は銃を突きつけられた様に両手をあげる。



『なんで…なんで浮気なんかしたのよ!?』


『…ごめん。俺そうゆう人間なんだ。』


もう、正直で良いと思う


『あたしが死んだってどうにも思わないでしょう!?』


『ほんとにそうならハナから止めないよ。』


『…嘘つきのくせに。』


『……まぁ嘘つきと思って聞いてくれていいや。俺さ。時間を戻せるんだわ。5秒だけど。』



『は?なんのジョークよ!?バカにしてんの?!』


『ジョークじゃない。証明する。隣いっていいか?』


俺は返答を待たず、真弓の隣に立った。


見下ろした地上はかなり遠い。


『俺今から飛ぶから。』


『は!?飛び降りるのは私でしょ!?』


『いや違うんだよ。もしさ、俺を許せたら飛び降りた直後俺に聞こえるように、許す、って叫んでくれ。そしたら時間を巻き戻す。』



『……それ、巻き戻したら飛び降りる前の時間に戻るんだよね?そしたら本当に飛んだかわからないじゃん!』


『じゃあこうしよう。俺が飛び降りたあと、許す気になったら、俺が知らない事を叫んでくれ。そうだな、例えば真弓のばーちゃんの名前。時間が戻った時、真弓は時間が戻ったことに気がつかないけど、俺が真弓のばーちゃんの名前を知ってたら俺が本当に飛んだって証明になるわけだ。』



『……私がおばーちゃんの名前言わなかったら?』



『そんときは、俺は時間巻き戻さずに死ぬ。』



『…ビビって、名前聞いてないのに時間戻したら?』


どんだけ疑うのよ真弓。



『もうそしたら俺を刺し殺すでもなんでもしてくれ!!さっ、やるぞ!!カウントとってくれ!』


『ホントにやるのね?』


『やる!!』


『やる!!その代わり許すなら、ちゃんとばーちゃんの名前頼むぞ!早めにな!落ちるのなんか一瞬だからな!?』



『わかった。』


『よし。』


俺は屋上の際に立つ。

『いくよ。さん、にー、』


深呼吸


『いち!!』


俺は一歩踏み出し、体は宙を舞う。


頼む!!早く!!ばーちゃんの名前!!!




四階の窓ガラスが見えた。


早く!!


三階を通過した。


だめなのか!?


二階────




『はるゑーーーー!!!!』



タイムリープ!!!


時間は5秒前に戻る。





『いくよ。さん、にー』

真弓はカウントをとっている。



『はるゑ!!!』

俺は叫んだ。



『……私、言ったんだね?おばーちゃんの名前。』


『言った。言ってた。あー…怖かった。』

俺は座り込んだ。


『…立って。』


『ん?』


真弓は俺の左頬を思いきりなぐった。


『いったぁ!!なにすんの!?』


『許す!!…けど、私たちは終わり!!』


真弓は屋上のドアに向かって一人歩きだす。


『………ぜったい良い女になってやるから!……………またね!』


バタン、と真弓は去っていった。



俺、本当なにしてんだろう。

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5秒 大豆 @kkkksksk

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