第3話 冬との出会い


「図書委員‥ですか?」

入学から数日経った日の放課後、俺は担任の青木先生からとある提案を受けた。

なんでも、去年まで兼任してくれていた文学部が部員減少で廃部になったせいで急遽委員が必要になったんだとか。そこで、何の部活にも所属していない俺に白羽の矢が立ったというわけである。

ここ四乃季学園は、中高一貫ということもあり、(俺やなっちゃんの様に高校からの外部入学生も存在している)その図書館はそこらの都立図書館のゆうに倍の大きさはあろうかという立派なものがある。俺も入学して以来よく利用させてもらったいたので、そこで司書の先生の目に留まったというのもあるとのことだ。

そして何より、

「お前、さっきのHR居眠りしてただろ。」

何も言えず、引き受けざるを得なかった。

というのも、あまり乗り気でないのには理由がある。この学園図書館、少し大き過ぎるのだ。

「利用する分にはこの上ないんだが‥」

図書館に向かいつつも、小さく愚痴を零す。

非常勤の司書の先生と2人の図書委員では、明らかに人員不足。一通り掃除をしようと思えば、終わる頃には初めの頃に掃除した所に埃が溜まっていることだろう。たかだか居眠りで、随分と損な役回りを押し付けられたものだ。


認証パネルに生徒手帳を翳すと自動扉が開き、中に入る方が出来る。なんとも近代的だ。

図書館の中は、そこが外と全く別の世界であるように感じられる。静かな館内に、誰かが本のページを繰る音と、古本特有の独特な香りが広がる。

「‥案外、悪くないかもな。」

そう、呟いた。


それにしても本当に凄い量の蔵書だな。本棚を目で追っていくと、様々な言語で書かれた背表紙の文字が目に入る。わ、アラビア語の本まである。

果たして読める学生はいるんだろうか‥

そうして俺が本に夢中になっていると、ふと後ろから小さく声をかけられた。


「ぁ、あの‥あなたが‥図書委員の‥た、棚山くん‥ですか?」

振り返ると、1人の女子生徒がいた。

青木先生の話じゃ、今日の集合にはもう1人の図書委員も来ているって話だった。

名前は確か‥

「えっと、本倉さん、であってるかな。」

振り返って答えると、彼女は肩をビクッと震わせると小刻み首を縦に振る。‥あれ?なんか怖がられてね?心無しか瞳には涙がウルウルしてるし、目もロクに合わせてくれないんだけど。

「‥こっち、です。司書の松山先生が、待ってます。」

それだけ言うと、彼女はそそくさと司書室に入っていってしまった。

ふぅ、こっちでも前途多難だな‥。

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めぐりてめぐる ゆきの @kuroyuki0007

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