第2話 救世主と小悪魔


 入学式の内容はほぼ入ってこなかった。唯一、教頭先生がヅラだったことは憶えている。やはり学生は教師のカツラ事情には敏感なのだ。閉式後は、それぞれのクラスでHRと軽い自己紹介の後、直ぐに解散になった。先程からチラチラと視線は感じるものの、誰かが話しかけてくる気配はない。まぁ無理はない。これ以上悪目立ちはしたくないし、今日は大人しく帰るか‥。

配布プリントを鞄に仕舞い席を立つと、確か隣の‥確か三好だったか、に呼び止められる。

「おいおい、もう帰っちまうのか?この後顔合わせも兼ねて野郎だけでカラオケ行くんだが、お前も一緒にど」「行く」

即答してしまった。だが仕方ない。内心飛び上がるほど嬉しいのだ。普通初日かましまくった奴に話しかけないだろ、神かこいつらは。

自分の心情に余裕ができたからか、途端になっちゃんのことが心配になってきた。その実悪目立ちするのは男子より女子の方が嫌いそうなものだが‥

と、思ったがどうやら大丈夫そうだ。

俺の心配など気にする風もなく、数人の女子と笑顔で楽しそうに話している。

‥ん?だが声が大きいな、こちらまで聞こえる。

「「宮野さん、棚山くんと付き合ってるの?」」

やっぱりそう来るよな。真っ先に疑う線だろう。世の中に入学式におんぶスタイルで登場したカップルがどの位いるのかは知らんが。

「まさか!メグとはそんなんじゃないよ?」

よし、その調子だ。そのままおんぶの誤解についてもしっかり説明してやってくれ。

すると彼女は急に内股になり、自身の体を抱きながら妙に艶っぽく言った。

「メグとは最早カレカノ程度の関係じゃないっていうか‥」

おい待て、その表現はさらなる誤解を生m‥

「「つまり“ピー"を"ピー"して"ピー"するような関係ってことなのぉぉぉぉ?!!?」」

‥‥‥よし、聞こえなかった。俺は何も聞こえなかった。ああ、これがもし小説だったなら確実にピー音が入るであろう会話なんてこれっぽっちも聞こえなかったとも!

早くカラオケに行こう。そして男子との親睦を深めるんだ。この教室にこれ以上いるとなぜだが心労で倒れそうな気がする。俺が教室を出る際に、ふと彼女の方を見ると‥

俺に気づくと‥チロっと舌を出して悪戯っぽく笑った。そして口の形をゴ、メ、ン、ネ、の順に動かす。





アイツ‥確信犯かよ‥








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