めぐりてめぐる
ゆきの
第1話 高校デビュー?
春、それは始まりの季節。この日本という国に於いてその認識は根強い。何度迎えようと、どこかむず痒く、それでいて少し新たな出会いに期待してしまう、そんな季節だ。
さて、感情はこの位にして現実に戻ろう。
人がセンチメンタルになるのは、決まって目を逸らしたい現実があるからなのだから‥
さて、現状を整理しよう。
俺、棚山巡は50メートル8.3秒、ちょっと足の速い女子程度の鈍足を飛ばし、この春から通う高校である、四乃季学園に向けて爆走中。
今日はその入学式だ。遅刻しそうだから走っているのだけれども。
「なっちゃん、式、始まるまで、何分...?」
「んー、あと9分かな。メグのペースだとあと15分は余裕でかかるんじゃない?」
息を切らし、顔を真っ赤にながらの問いに対して、隣を併走する彼女、なっちゃんこと宮野夏樹は涼しい顔で答える。く、この体力お化けめ。さすが陸上部長距離次期エース‥
「そもそも、なっちゃんがキチンと8時に起きてればこんなに急ぐことなかったんだよ!」
「ぐっ、だぁーもうごめんって!そこは謝るけどさ、起こすときに下着見たくらいで鼻血出すのもどうかと思うんだけど!中一までお風呂一緒に入ってたくせに!」
「やめて!それをここで言わないで!お嫁に行けなくなっちゃう!俺もなっちゃんも!」
「心配すんな!ウチが貰う!」
「あらやだこの子カッコいい!?」
とんでもないことを口走るので、思わず足を止めて言い合ってしまう。幼馴染だからか、彼女はどうにもここら辺の感覚に緩い気がする。俺だから冗談だと分かるが、確実に美少女の部類に入る彼女だからこそ勘違いさせられる奴がいたら可哀想なことこの上ない。
そんな下らない言い合いを繰り広げている間にも刻限は近づいている。残り7分。彼女の言う通り、このままでは確実に遅刻だ。
「なっちゃん、先行って。まだなっちゃんなら全然間に合うでしょ。」
まぁもし『アレ』ならもれなく俺も間に合うが、流石にお互いもう高校生だ。そもそも提案してくるわけn・・・
「あんた置いてくとか却下。メグ、アレやるわよ」
いやマジかコイツ。
「いや、流石に歳的に色々厳しいというか、主に世間体がよろしくないというか・・・」
なっちゃんの目がギロリとこちらを睨む
おっと、ラノベのヘタレ主人公を見るような目をしていらっしゃいますね。
「じゃあなに?2人とも入学式遅刻する?」
いつから立場が逆転してるし、自分が元凶だって完全に忘れてるなこの子。こうなったら意地でもやるんだろうなぁ‥
「お願い・・・します。」
「ふふん、お願いされました。」
彼女は得意気に鼻を鳴らし、背を丸めて屈む。俺はその背中にゆっくりと体を預け、両の手を首の前で組んだ、と同時に凄いスピードで走り始める。おや、あっという間に
『女子高校生が自分より身長の高い男子高校生をおんぶして全力疾走しているの図』
の完成だ。なかなかどうして地獄絵図である。
あぁ、街ゆく人々全員の視線がこちらに向けられているのが分かる。なるほど、これが集団視姦プレ、いや、市中引き回しの刑というやつか、小学生の頃とは羞恥心のレベルが段違いである。いっそ殺して欲しい。
校門を閉めかけていた先生達をドン引かせながら校門を通過し、講堂に一直線に向かってゆく。
ここまでくると流石に俺達と同じように遅刻寸前の生徒もちらほらいるので、街中とはまた違った好奇の視線が容赦なく身体中に突き刺さる。だっておんぶだからね、仕方ないよね。
え?なっちゃんは恥ずかしがってないのかって?
「ねぇメグ、ウチら今、風になってるよ...フッ」
だそうです。彼女の羞恥心は小2で成長が止まっています。何の問題もありません。
だが、ここで俺はある事に気がついた。
風になったのはいいとして、まず間違いなくこのまま講堂に凸るつもりである。
風になったせいで(?)少々ハイになっている御様子
とはいえ、まずい。かなりまずい。
今までは数名の生徒に見たられたとはいえ、幸い顔バレには至っていない(と信じたい)が、このまま講堂へ突っ込めば話は別だ。
高校生3年間、やれ親子プレイだの、やれ子連れ狼だのバカにされること必至である。
まずい、なんとかそれだけは回避せねば・・・
「なっちゃん、もう講堂目の前だし、そろそろ下ろして貰えると助かるんだけど・・・」
いやもうこの扉開け放たれたら高校生活詰m・・・
そんな俺の思いも虚しく、彼女は勢いよく講堂の扉を開け放つ!!
全校生徒及び教師陣、の視線がこちらに向く。あ、終わった。さよなら俺の高校3年間。
そんな項垂れた俺を背に乗せ、彼女は堂々と言い放った。
「あの!入学式の会場ってここで合ってますか!」
一同「「「「「お、おう」」」」」」
「メグ、合ってるって!ほら、間に合ったんだよ!ご褒美によしよしして!」
「後でしてあげるから‥早く降ろして‥」
もうぐったりである。それはもう顔に血が昇りすぎて足の方が貧血にならないか心配な位に。
「ええと、その2人、早く着席して。式を再開します。」
教頭先生らしき人から注意を受け、俺達は慌てて新入生席へ向かう。しかし、大恥をかいたとはいえ遅刻しなかったのは大きい。
ただ、教頭先生が何か気になることを言ったような気がするが‥
式を再開‥、再開‥、つまり中断したということだ。原因は間違いなく俺達2人。
だが、再開するということは‥
もう始まっていた、とも言える。
さっきまで顔に集まっていた血液がスーっと下がっていく感覚を覚えた。
「嘘だぁ‥」
とりあえず、友達作り頑張ろう‥
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