第6話 エピローグ
「ああ。いい退屈しのぎになったわ。」
上機嫌で揖斐に戻ってきた八品の一言に曽山はがっくりと肩を落とした。
連合艦隊総旗艦大和を武力制圧するという暴挙を行って「退屈しのぎ」と言うのだからこの人物を満足させるには世界征服でもしなければならないかもしれない。
そんなことをしみじみ感じながら義務的に曽山は尋ねた。
「ご満足いただいたところで首尾はいかがでしたか。軍法会議とか軍隊刑務所とか銃殺とかあまり楽しくない未来が見えるのですが。」
「あら、いやねぇ暗い未来なんて。もっと楽しい未来を予想しなきゃ。」
暗い未来を出現させる元凶でありながら全く反省したような様子も見せず部下に目を向けた八品に曽山はまたもや大仰な溜息をついた。
「なによ。そんなに心配しなくてもちゃんと博打オヤジから弾薬補給の許可はもらってきたわよ。旗艦に搭載されているなかから必要量を見繕ってくれるわ。それに今回のことは演習だったってことで手は打ってあるから安心なさい。」
少し怒ったような口調で文句を言いながら八品はそれでも楽しそうであった。
各艦艇には確かに揖斐の乗組員で編成された陸戦隊が大和の乗組員と共同で敵コマンドの侵入に備えての演習を行ったと通達され、八品中佐の独断で旗艦制圧が行われたということは表沙汰にはならなかった。
だが、かつては陸軍司令部に演習用砲弾を撃ち込んだ八品である。
各艦隊の参謀クラスや指揮官クラスは演習を行ったのが揖斐の陸戦隊だと知ると
「あぁ、また八品中佐がとんでもないことをやらかしたな。」とある者は真っ青に、ある者はため息を、そしてごくごく一部の者は感嘆の思いを抱きながら述懐した。
「さぁてそれじゃああたしものんびり上陸して食事でもしてくるかしらね。
トラックの魚料理は逸品だから今のうちに堪能してくるわ。あなたもどう?」
悪魔のささやきを曽山は頭の中で懸命に振り払い答えた。
「主砲弾の補給の指揮をとらなければなりませんので、残念ですが遠慮させていただきます。」
「あら、そう。せっかく面白いことが起きそうなのに。残念ねぇ。」
珍しく肩を落としたような八品に内心驚きつつも曽山は敬礼の姿勢をとり八品を見送った。
そして八品の姿が見えなくなったところで呟いた。
「あなたが面白いと言ったら大概私には荷が勝ちすぎることですから。ですが、あなたの下では確かに退屈しません。胃痛は増えましたが、ね。」
そう言う曽山には自嘲とは違う清々しいような笑みが浮かんでいた。
しかし数時間後
「八品中佐に率いられた乗組員が飲み屋で酔っぱらっていた補給部の変人中佐をボコボコにした。」との報告にやはりと思いながらもキリキリと痛む胃と頭を抱える曽山であった。
破天荒な司令官 八品中佐の娯楽 <了>
破天荒な司令官 八品中佐の娯楽 @kai6876
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