胎児食

@azuma123

第1話

 女にカエルを産ませる仕事をしている。連れられてきた妊婦の腹をさばいて胎児を取り出し、代わりにカエルの卵を入れるのだ。時期がきたらイベントで見せ物にするとか、出産シーンを映像作品にして販売するらしい。妊婦は、一週間に二度ほど、わたしの部屋に連れてこられる。麻酔で眠らせたあと床に転がし(眠った状態で運ばれてくる妊婦もいる)、腹をさばいて胎児を引きずり出す。ポッカリと空いた子宮に、カエルの卵をおいて元通りに縫合する。それだけの作業だ。カエルの卵のストックはたくさんあるため困ることはない。カエルと交代で取り出された胎児は好きにしてよいと言われているため、食用としている。彼らは栄養満点である。

 先日、ひどい風邪をひいてしまった。その日はちょうど仕事の入っている日で、昼過ぎに妊婦が運び込まれた。すでに眠った状態だったためいつも通り床に転がし、腹にメスを入れて胎児を引きずり出す。代わりにカエルの卵を入れて縫合し、完了だ。処置済みの女は外に置いておけば回収され、ポストに報酬が投函される。女を玄関先に転がし部屋に戻ったあと、体調が悪いことを思い出し、取り出した胎児をそのままにしてベッドに倒れ込んだ。目の奥と頭、身体の節々が痛い。こりゃあ熱が高くなるなあと感じながら眠りについた。

 起きると部屋の中は真っ暗である。どれくらい眠っていたのかと、時間を確認したいがスマートフォンのありかがわからない。この部屋には時計もテレビもパソコンもなく、スマートフォン以外で時間を確認するすべがない。とにかく電気をつけようと立ち上がり、壁についているスイッチを手探りで見つける。電気をつけると同時に体調が回復していることに気付いた。そして、腹が減っている。あわせて胎児をそのままにしていたことを思い出す。冷蔵庫にも入れないまま放置してしまったし、痛まぬうちに食ってしまおうと思った。先ほど作業をしていた床を見渡して胎児を探すも、しかし、胎児の姿はない。どこかに転がっていったかなと屈んで辺りを探してみるも、どこにも見当たらない。おかしいなあと困っていたところ、後ろから小さく呻くような声が聞こえる。振り返ると赤いかたまりがウゴウゴと動いており、ときおり小さく鳴き声を発している。母の胎内に帰りたいのだろう。少しばかり悲しい気持ちになるも、まあ、わたしの腹に入るのだから同じようなものだろうと思い直す。「腹に収まる」という点では、受胎も食事も似たようなものだ。わたしは胎児の腕だろうか、小さい突起をちぎり取って口に運んだ。胎児はピイピイと、小さく鳴き声を上げていた。

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