味覚パッドと激辛麻婆豆腐

@Harumaki-don

最終回【味覚パッドと激辛麻婆豆腐】


敵を倒し辿り着いた摩天楼の最上階。



思えば長かった。

料理屋が減り代用食に味覚生成パッドが普及したこの世界。

激辛麻婆豆腐が名物の中華料理屋の一人息子で少々正義のヒーローに畏敬の念を抱いていた俺はしかし、押し入ってきた屈強な覆面達にはなすすべがなかった。

体を鍛え、両親の仇を突き止めた私は今、1人の仮面の男と向き合っている。



「善意なのだ」男は語る。

「私が開発したこのパッドは全ての人に美味しさを届けることが出来る。そこに身分の差は生まれなくなる」


話しながら仮面を外した男は、パッドを開発した研究者であった。


「貴様の両親は私の元部下でな。『食事にはその時その時の楽しみがある、それは機械には再現できない』などとほざいて離反したのだ。」


「これを普及させる事がこの世界から差別を根絶する足掛かりになる!それは貴様の好きな正義とも言えるだろうに!何故邪魔をするというのだ!」


こんな奴が私の親を殺したのか。

この訳の分からないことを言う老人が、私の親を殺したというのか!



1歩踏み出す俺の動きを制するかのように、老人はポケットから何らかのコントローラーを突き出す。


「動くな!私はこのスイッチで味覚を、感覚をコントロール出来る。」


それがなんだと言うのだろうか。続けてまた1歩奴へと近づく。


「味覚の中でも特に辛味、それは痛みでもある……ゆえに自由に痛みを操れるのだ!」


ホログラムに映されたのは先程倒した敵の1人。老人が側面のスイッチを押すと、その男は絶叫と共に苦しみ出し、そして動きを止めた。気絶したのだろう。


「どうだ、この通り!これ以上私の邪魔をするならこのスイッチを押してやる!」

「このスイッチは貴様の味覚パッドに接続されている、貴様は限界を超える痛みにのたうち回ることとなるのだ!!」


言葉にはお構い無しに前へと進む。

どんな恐怖にも立ち向かうこと、それはヒーローたちが俺に教えてくれた事なのだ。

老人がスイッチを押し、俺は舌の激しい痛みに絶叫する。


それでも前へと進む俺に老人は狼狽える。


「どうして動けると言うのだ!この痛みに貴様は耐えられないはずだ!」

「この程度の痛みは親父の麻婆豆腐に比べれば甘いくらいだ」


老人を打倒し、スイッチを破壊する。



老人は逮捕され、俺は帰路に着く。

激辛麻婆豆腐を受け継ぐ意思を、胸に宿して。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

味覚パッドと激辛麻婆豆腐 @Harumaki-don

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ