第36話 負け惜しみサティスファクション
壮行会の次の日。
いつものような放課後。
「野々垣さんも今日休みなのね」
「ああ。野々垣はクラスの奴に放課後誘われたらしいからこんな部よりそっち優先したほうがいいぞって連絡しておいた」
そもそも、野々垣は正式に入部してないしあのステージ限りってことも考えられる。
「『こんな部』って何よ。この部の『こんな』要素はあなただけよ?」
「それが事実なのはわかるけど活動内容も『こんな』に入ると思うぞ」
「じゃあ昨日のアレは大成功よ。杜若ハルカちゃん♪」
仁科さんがにっこりした顔でそう言う。
嫌な記憶がよみがえる。
あのステージ後、感極まっていた桃花と僕と仁科さんが一緒に教室に戻ってたことからステージの女の子の一人が僕だってクラス中にバレてしまった。
それにしても「え、かきなんとかくんだったの……?」みたいな反応の女子ちょっと酷くない?仮にもクラスメイトだよ?ぼっちがクラスメイトにこれをやってしまうと非難の嵐だ。ちなみにぼっちは自意識過剰なのと無駄に記憶力が高いから意外と人の名前は覚えている。かわいい女子だと下の名前も覚えているレベル。いつだって、ぼっちは美少女に話しかけられてボーイミーツガール的な展開を夢見ているのだ。ただの人間に興味なさそう系美少女ならばマイノリティーな存在であるぼっちに声をかけてくれるんじゃないかって期待しているのだ。だから、全国の女の子はからかい半分、面白半分でぼっちに話しかけるなよ。下手すりゃ死人が出る。
「まあ僕の印象は『無』から『女装のやべー奴』に変わっただけだけど、きみは結構変わったんじゃないの?」
「私は桃花さんありきよ。ただのバーターよ」
仁科さんは以前からぼっちのちょっと話しかけづらい地味な美少女っていう立ち位置だったけど先日のステージで意外性となにより彼女の魅力がみんなに伝わったらしく「今、注目の人」みたいな感じになってる。
「まあ、桃花はやっぱり人気者だよなあ……」
「そうね。昨日のステージ。やっぱりバスケ部への印象を考えたとき少し心配だったけどそんな声が聞こえないほどの絶賛されてるわね」
「あいつはなんだかんだで僕たちと違って慕われてるからな。性格もいいし」
「『たち』で私を巻き込まないでよ。あなただけでしょ?」
「いや、仁科さんも大概でしょ」
「杜若くんよりはマシよ」
「ある程度認めてんじゃん……」
「桃花さんこれからインターハイが終わるまで女バスに同行するって言ってたわね」
「心研にいてもしゃあないからな。一応、ひと段落着いたし。妥当な判断だろう」
「生徒会は潰せなかったのに?」
「結局、何やっても受けるんだよ。あいつらは」
「まさか、私たちが引き立て役になるとはね」
あの後、僕たちのステージが終わったあと予想通り生徒会のステージ演出が始まった。奇しくも、彼らもルミルピだった。曲はルミルピで人気が高い夏のナンバーだ。演出自体、あの曲はダンスが難しいし、申し訳ないが僕たちのものに比べると生徒会の演出はとても低クオリティーのものだった。しかし、センターの武藤が裏声で歌うという暴挙に出たため、より一層、僕たちの演出と対比してレベルが低いところが逆に受け全校生徒は大いに盛り上がった。
「話題性も軽音楽部が持って言った感じだしなあ……」
「なんならそもそも壮行会なんだから一番盛り上がるのは運動部の人たちなんだから私たち文化部が一番目立つなんてこと無理じゃない」
「えぇ……」
そもそも論というかそれ先に言えよ。
この人の場合、全部どうなるかわかっていて最後に総評してる感じあるからたちが悪い。
「でも……」
「え?何?」
「でも、楽しかったのは事実よ。ありがとう」
「ああ。こっちも楽しかったよ」
そうだ。
僕は楽しかったのだ。
それはみんなも一緒だろう。
それは終わった時のあの笑顔を見ればわかる。
「今度は何やる?バンドでもやるか?」
「ここは心理学研究同好会よ。心理学を学ぶのが前提よ」
「いや、それ仁科さんだけだし。あと、ずっと気になってたけど、きみもたいして心理学学んでいない気がするんだけど気のせい?」
「バカにしないで頂戴。私は進路希望は心理学部が第一志望だけど就職で苦労しそうだからもうちょっと就職率の高そうな学部に変更しようか悩んでいるくらいには心理学に興味あるから!」
「めちゃくちゃ微妙なライン!?」
「だから、心理学だけじゃなく他にもいろいろな活動に取り組んでいくってのには大いに賛成よ」
「え?」
「『企画・提案』してね副部長」
「まあ……。そのうちね。というか、もう少しで6月末だけど前期定期考査あるけど勉強してるの?」
「え?定期考考査くらい授業聞いて3日前くらいから始めれば十分でしょ」
「僕、勉強するから帰るわ」
「ちょ!ちょっと!部活サボる気?」
「なんで運動部でもないのにこんな時期に中身のない部活やらんとダメなんだよ!」
「部長命令だから!」
「え!あ、ちょっ!!」
帰ろうとした僕だったが仁科さんに右腕をつかまれてしまって変な声が出てしまう。
仕方ない。今日くらいはいいか……。
久しぶりに仁科さんと二人きりでいる部室。
それが少し前のことなのにとても懐かしく感じる。
みんなといるときとはまた違った心地よさがあった。
結局、生徒会は潰せなかったし現状、僕のスクールカーストは向上したとは言えない。
だけど。
負け惜しみかもしれないけど、どこか満足している自分がいた。
正しい序列の壊し方 ぷりまゐ @prima15
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