第35話 ぼっち。青春真っ盛り

 「この世はすべて舞台。男も女もみな役者にすぎぬ」

 どこかで聞いたことがある言葉だけど、言い得て妙だと思う。

 つまり、人生なんて芝居なのだ。ごっこ遊びなのだ。

 「学校生活」という舞台で僕はスクールカースト最底辺という役を演じている。

 それだけの話なのだ。

 でも、その台本は誰が作っているのだろうか。

 どこの馬の骨ともわからん奴が作った、あるいは自分で無意識に台本を作っているのだろうか。


 それならば。


 まだ、僕のやりたいように台本を決めてそれを演じた方が腑に落ちるのではないのだろうか。

 人生は舞台。そして、僕も役者で周りも役者だ。

 これは自分すら客観視するという点で僕のNPC理論をさらに応用したものだいえる。

 このように考えると結構人生楽になると僕は思うのだ。




 体育館は暗い中、僕たちはステージに上がる。

 暗闇の中でも、人の出入りはうっすらとわかってしまうので全校生徒は少しざわつき始めていた。

 軽音楽部の片付けが完全に終わり僕たちの準備が整ったのを見計らって仁科さんが事前に用意されているインカムで放送部に準備ができたことを伝える。


 配置としては、ステージ中央に正面から見て左から僕、野々垣、小石川先生の順だ。

 そして、ステージ前方左端に仁科さんと桃花がダブルMCを務める。

 余談だけど、doubleの当て字をWって表現するのは英語圏では通じないらしいから気を付けないとだめだぞっ☆

 曲がり角曲がったらお金持ちになったりするのは日本だけなのだ。

 いや、ならねーよ。


 そんなしょうもないことを考えているといよいよ僕たちのステージが始まる。


 「残すところ文化部のステージも次の部で最後となります!」


 「最後は、心理学研究同好会の皆さんです!!」


 放送部の女の子が快活にそう言った。

 軽音楽部を含め前の文化部のみんなが盛り上げてくれたおかげでお前ら誰だよ?って雰囲気にはならず大きな拍手で迎えてくれた。

 高校に入って初めて学校の人に歓迎されて少し涙が出そうになる。

 が、そもそも、通常の「僕」を受け入れない学校ってやっぱりクソだわ。


 そして、暗闇のステージの中、スポットライトでステージ左前方にいる仁科さんと桃花が照らされる。


 「みなさんこんにちは。私は心理学研究同好会の部長を務める2年5組の仁科菫音と申します」


 みんなが少しざわつき始める。

 仁科さんと桃花が学校指定の制服ではなくルミルピの制服コスプレ衣装だからだろう。

 少しざわざわしてるのは、ルミルピの衣装だと気づいている人もいるからであろう。

 なによりこの二人は僕が認める美少女なのだ。

 このくらい騒いでもらえないと困る。


 「私たちは顧問の小石川先生と共にその名の通り日々心理学の研究に励んでおります」


 一切励んでおりません。

 たんたんと真面目な顔ででたらめを言うからこの子は恐ろしい。


 「しかし、現在、心理学研究同好会は正式には部ではなくあくまで同好会に留まっております」


 「ですので、部として認めてもらえるように今年度から私たち心理学研究同好会は活動の範囲を広げていきたいと考えております」


 「そんなこんなで、堅い話はこの辺にしてミュージックスタート!!!」


 今まで仁科さんの隣でにこにこ沈黙を貫いていた桃花が突然引き金を引く。

 

 イントロが流れいきなりサビが始まる。

 同時に、ステージ全体が照らされ僕たちが露になる。


 その瞬間、さっきまで、何が始まったのかわからない生徒たちがざわつきが

 歓声に変わり体育館に響き渡る。


 「「「「「おおおおおおお~↑」」」」」


 当たり前のことだが、練習では感じなかったけどこうして全校生徒で女装で踊っているという事実を自覚すると死ぬほど恥ずかしい。


 だが、僕にはそんなちゃちな羞恥心はない。

 こいつらは全員NPCなのだ。

 僕以外全員フェイクなのだ。

 そして、今僕は女の子なのだ。

 だから、全力でかわいく踊るしかない。


 「急に自己紹介しま~す!!私、望月桃花と申します!最近、私は心研のメンバーになりましたが実は女バスの一員だったりします」


 桃花が僕たちが踊っている中、自己紹介を始める。


 「私は今、足にケガを負っていましてバスケができません!!そんな中、私も運動部の端くれということもあり運動部、そして、学校を盛り上げたい所存です!!」


 「現在、私たちは小石川先生含めこの5人で活動をしています」


 桃花のいつも以上にハイテンションな自己紹介に対して相変わらず真面目なトーンで話す仁科さん。

 それがみんなの笑いを誘う。


 「みなさん3人のダンスどうです?かわいいし上手いでしょ?」


 「でも、3人だけ目立つのも悔しいんで……。ね、部長」

 

 無言でうなずく仁科さん。


 その時、曲は2度目のサビに差し掛かる。


 仁科さんと桃花が急いで僕らの方へ軽快に寄ってくる。


 そして、サビと同時に仁科さんがセンターの位置につき野々垣と桃花が仁科さんの両脇を固め5人でのステージとなった。


 突然の5人でのダンスに観客は一層声を上げる。


 「「「「「おおおおおおおおおおおおおお~↑」」」」」




 ああ……。

 確かに僕は普段「学校生活」という舞台ではスクールカースト最底辺という役を演じている。


 だけど。


 今、約800以上の人たちの前でぼっちがステージで歓声を浴びているのだ。

 この今の時間、この瞬間だけはまぎれもなく僕が、いや、僕たちが主役だ。


 5人でサビを全力で踊り終わりと同時に最後に決めポーズをとる。


 ちらりと横を見ればみんな一様に笑顔で安心した。


 「以上、心理学研究同好会の皆さんでした!!!」


 放送部の女の子が僕たちのステージの終わりを締めくくる。


  「「「「「おおおおおおおおおおおおおお~↑」」」」」


 たくさんの歓声と大きな拍手。


 そのテンプレなその歓声が、寒いと嘲笑ったその歓声が今はとても心地よく感じた。

 

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