第34話 SHAKER TROUBLEMAKER

 壮行会当日。


 壮行会は午後から行われる。

 4時間目までは特段いつもと変わらない時間が過ぎていった。


 壮行会に参加する運動部とステージ主演にかかわる人たちは体育館で昼休みから準備を始め5時間目から一般生徒を迎えるという形となる。


 そして、僕たちは今、その準備をしている中なのだ。

 そう、輝きを待っているのだ。

 そんな名曲のような状態だ。


 「杜若くんは女の子だったの?」


 「どこをそう見ればそうなんだよ!」


 「いや今の陽希は360度どっからどうみても女の子でしょ」


 「ちょっとかわいすぎて引け目感じるレベルですね……」


 「いや、僕は男だわ!!」


 僕は小石川先生にばっちりメイクしてもらった。

 鏡を見ると確かにかわいい……って僕はバカか!

 これ以上考えると取り返しのつかないところに行きそうなのでやめとく。

 もう取り返しがつかないところに行ってそうだけど気にしない。


 てか、みんなもメイクしててちょっとドキッとしてる自分もいる。

 なにこれ心筋梗塞とかの前兆なの?


 そもそも白銀北高校は校則がゆるいのもありちょっと派手目な女の子は普段から化粧してたりする。

 でも、僕自身、オシャレに超疎いのと心研メンバー以外の女子と普段顔を合わせないから誰が化粧してるとかよくわからない。

 こういうのに気づけない奴の陰キャ感は異常。

 まあ、僕のことなんですけどね、初見さん。


 今回はルミルピでしかもデビュー曲ということもあり清楚な感じを押し出しているので僕以外のみんなは俗に言うナチュラルメイクってやつなんだろう。

 仁科さんも桃花も野々垣もすっぴんでも十分綺麗だから余計に映える。

 小石川先生は社会人ということもありいつも化粧しているのですっぴんは見たことないけどあの人も綺麗なんだろうというのは容易に想像ができる。


 「もうすぐね」


 「そうだな」


 そう、僕たちは準備はすでに終わりあとはその時が来るのを待つだけだ。

 僕たちの演出はサプライズが肝なのでステージ裏に身を潜めている。

 小石川先生は僕のメイクを終えた後、僕のクラスに戻っていった。

 「僕の」とか言ってるけどまったくと言っていいほど帰属意識ないし、むしろクラスメイトからノーを突き付けられるレベル。

 なにこの悲しい事実。


 そんな益体もないことを考えていると、キーンコーンと学校特有のチャイムが鳴る。

 

 「テンション上がってきた!」


 「楽しみだけどちょっと緊張しますね……」


 「大丈夫だよ!柚桔ちゃん!」


 「そうですよね……。やってきたことやるだけですよね!」


 「その精神!その精神!」


 ちょっと緊張している野々垣を桃花が励ます。

 桃花も気丈に振舞ってるけどその本質的な性格上、緊張はしているはずだ。

 でも、それはこれまでの彼女の経験と能力が補っているのだろう。


 まもなく、一般生徒が入場する。

 そして、事前に体育館で準備をしていた吹奏楽の演奏と共に運動部たちが入場してくる。

 それぞれキャプテンが自分たちの部の名前が書いてある看板を持っているのをステージ裏のモニターからその様子を見ていた。


 その後、4月末に行われた前期壮行会と同様に各々の運動部のインターハイに対する決意表明が語られる。真面目に語る部もいればちょいちょいウイットに富んだ部もいる。

 スポーツ、いや、学校生活に興味がない奴はこの時間は実に退屈な時間であったりする。

 まあ、僕のことだ。


 すべての運動部の決意表明が終わると今度は校長先生の恒例の激励の言葉が送られる。


 「武田校長先生ありがとうございました!」


 校長先生のありがたいお話が終ったあと、司会の加賀谷生徒会長が言った。


 そして、またしても恒例の生徒会の茶番が始まる。


 「これから大会が控えるみなさんに僕たちからもささやかながらステージ演出を送らさせて頂きます!!」


 「みんな盛り上がってるかー!!!」


 何が盛り上がってるかだよ。

 お前のせいで僕の心は盛り下がってんだよなぁ。


 そんな会長の煽りに待ってましたとばかりに反応するバカがいる。


 「おおおおぉ~↑↑↑」


 生徒会の武藤だ。

 そして武藤は大声を出し全校生徒を煽るように両手で上下させる。


 すると、


 「「「「「おおおおおおお~↑」」」」」


 全校生徒がそれに対して呼応する。


 「ん?まだまだ足りないですよー!!」


 「「おおおおおおおお~!!↑↑」」


 加賀谷会長と武藤が一緒になってまた全校生徒を煽る。


 すると、


 「「「「「おおおおおおお~!!!↑↑↑」」」」」


 このような茶番バリエーションを変えたりして7、8回繰り替えされる。


 「……おおー!↑」


 桃花がモニターを見ながら全校生徒の小声で真似をしてる。


 「くっさ」


 「これいつ終わるのかしら」

 

 「ちょっ!二人とも酷くない!?」


 「いやしょうもないでしょ。さっさと進めろよ」


 「気づけばもう6時間目になるのね。帰るの遅くなりそう」


 「リアリスト!?」


 「言っとくけど二人がおかしいんだからね!?」


 「これこそまぎれもない同調圧力だよなあ……。やってることは何も面白くない。小学生レベル。むしろ小学生に失礼」


 「これに関してはいたって普通の感性でしょ」


 「えぇ……。柚桔ちゃん!私、普通だよね?」


 僕たちの反応が辛辣だったからか、野々垣に救いを求める桃花。


 「確かに長いですね……」


 「柚桔ちゃんもなの!?」


 「そら野々垣は僕の弟子だし、今でこそ垢ぬけたが本質的には陰よりだからな」


 「ちょっと!陽希ャ先輩!あんまり暴露しないでくださいよ!しかも、弟子じゃないですよ!ただの後輩ですよ!」


 野々垣が小声で手をわしゃわしゃしながら慌てふためいて僕の発言に抗議する。

 ちょっと、いや、普通にかわいいなと思いました。


 その後も数回茶番が繰り返されようやく文化部のステージ演出が始まる。


 「みんなが盛り上がってるのを確認できたのでこれから文化部のステージ出演に移らさせて頂きます!!」


 「「「「「うおおおおおおお~!!!↑↑↑」」」」」


 「「はぁ……」」


 「息ぴったり!?」


 僕と仁科さんがそろってため息をつく。

 ため息も出るだろこんなの。


 そして、やっとトップバッターのチア部がステージに上がり演技を始める。


 「いや~うちのチア部スタイル良すぎじゃないですか!」


 野々垣が感激してる。

 確かに目の保養になる。


 その後、生徒会の茶番とは裏腹に文化部のステージ演出はつつがなく進んでいきどの部もそれなりに盛り上がっていた。


 その中でもとりわけ4番手の軽音部がステージ上に上がりその演出は隆盛を極めていた。


 「やっぱりバンドってかっこいいよね~」


 桃花がうっとりとした表情で見ている。


 「バンドやりたいのか?」


 「ちょっとね……」


 左手の親指と人差し指でちょっとというしぐさをする桃花。

 桃花はバスケが上手いのはもちろん、好きなのも間違いないけどそれがすべてっていうわけではないのだ。いままで彼女を見てきた中でバスケに自分の青春をすべて捧げるみたいな感じではなかった。あくまで何事も楽しく。その先に成果を。

 だから、心研に入ってくれたってのもあると勝手に僕は思ってる。


 「なんかピークがここのような……」


 野々垣が不穏なことを言う。


 「なんとなく嫌な予感がしてならないんだけど大丈夫かしら」


 「最悪、場をしらけさせて恥かいて終わりだから大丈夫だろ」


 「それ大丈夫じゃないよね!?」


 「まあ、死ぬこと以外かすり傷ってよく言うし」


 「杜若くんはスクールカースト的にすでに死んでいるんじゃないかしら?」


 「その通りだな。少なくとも『僕』はスクールカーストが下がることはないからな。無敵の人だ」


 「最弱なのに無敵って矛盾してませんか?」


 「無知の知みたいなもんだな」


 「それ全然意味違うと思うんだけど」


 「杜若くんはむしろ知ったかして恥かくタイプでしょ?」


 「もう僕のことはもういいの!あ、先生!!」


 「みんなお疲れ~♪」


 小石川先生も全校生徒が盛り上がってる中、こっそり抜け出して衣装に着替えてステージ裏に来てくれた。衣装も相まってやっぱりこの先生綺麗だなってつくづく思う。


 ほどなくして、軽音部のステージも終わりいよいよ僕たちの時間だ。


 「よし!みんな準備はいい?」


 「はい!」

 「……はい」

 「は、はい……」

 「あ、はい……」


 「なんで杜若くん以外微妙な反応なの!?杜若くんなんかしたの?」


 「え?いやいや、僕は何もしてないですよ!」


 「みんな盛り上がってんのかー!↑心研ファイト―!!!」


 「さむ……」


 「いやそれ、あんたが散々バカにしてたノリでしょ……」


 「陰希ャ先輩……」


 「杜若くん本当に何したの!?」


 こうして僕たちは満を持して(?)ステージに上がる。




 どうでもいいけど、どんなコミュニティに入っても浮く奴いるよね。


 まあ、僕のことなんだけど。



 ステージ出演まであと5分!!!

 

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