第33話 A.人生これでいいんだよ!
壮行会前日。
僕たちは最終確認としてみんなで部室に集まっていた。
さっきみんなでステージに上がり一通り演出を通した。
そして、今、僕たちは自分たちの演出をスクリーンで見てる。
「うん!かなりいいじゃん!!」
「企画がサプライズ的なものだから1回しかステージで練習できなかったのは申し訳ない」
「そもそも壮行会のメインは運動部なんだから文化部のステージ演出のために体育館が使えるのがおかしいのよ」
「まあ、この学校だから許されてる感はあるな。この学校はよく言えば『ノリがいい』悪く言えば『寒い』のが校風だからな」
「それ、悪く言えばの方そんな風に思ってるの陽希だけでしょ!」
桃花が怒る。
学校、楽しいんだろうなあ……。
「悪いわね。杜若くんだけじゃなくて『私』もそう思ってる一人よ」
「ちょ、菫音!?」
「さすが部長だな本質を見極めている。桃花。この部ではきみがマイノリティーであることを忘れるな」
「私が間違ってるの!?」
桃花が驚いたあと小難しい顔を傾けながらなにやら考えている。
心研に入ったことを後悔してそうだ。
「な、なんにせよ、本番に近い状況でこれだけ出来たら文句なしですよ!」
気まずい雰囲気を感じ取ったのか野々垣が話を戻す。
グッジョブ野々垣。
さすが僕の後輩だ。
「だよね!でも、本番、全校生徒に見られるのはちょーっと恥ずかしいかなあ」
桃花が少し顔を赤らめながら言う。
彼女は昔から意外と変なところで内気だったりする。
まあ、根がちょっとシャイガールなんだろう。
「桃花さん。気持ちは痛いほどわかるわ。でも、一番恥ずかしいのは杜若くんよ……」
「だ、だよねー……」
「甘いな二人とも。もう僕は明日に備えてそんなちゃちなプライドはとっくに捨て去ってる」
僕の覚悟にビビったのかみんなが押し黙る。
これはNPC理論の応用だ。
相変わらず、最強な理論で申し訳ない。
僕はこの学校生活、ひいてはこの青春でこれ以上失うものなどない人間なのだ。
だから、周囲の人間にどう思われようと関係がないのだ。
でも、これは比較的生徒の民度が高くいじめのないこの学校だから可能だということを留意しておかなければならない。
例えば、これはあくまで一般論だけど、人間関係が無だからと調子に乗ってヤンキーみたいな連中に無駄にたてつくと和解するまで割とその後の学校生活がハードモードになるから要注意だ。
怖い連中にはなるべく関わらず、関わらざるをえないときには謙虚に笑顔で接するに限るな!(経験談)
「杜若くん……。まさかとは思うけど女装にでも目覚めたの……?」
「違うよ!でも、言い出しっぺの僕が恥ずかしがっては務まらない。やると決めたからには本気でやるに決まってるだろう」
「かっこいいこと言ってる風だけど、ようは女装に本気出してアイドルやるぞ!ってこと?」
「桃花さん……。真実は時に人を傷つけるわ」
「勝手に僕を憐れまないで!」
「でも、確かに、陽希ャ先輩めちゃくちゃ女の子してますよね……」
「私の次にかわいいな」
「僕はさておき、いやマジで先生慣れすぎでしょ……」
この人、前職アイドルなの?
それくらいかわいいというか美しい。
キュートいうよりもビューティフルだ。
というか、このレベルの英単語しか知らん。
「それにしても仁科ちゃんよくやった!私たちは文化部のトリなんあだからパーッとやるわよ」
「それについては本当に申し訳ございません……」
仁科さんがきまりが悪そうにみんなに謝る。
先日、文化部代表者でくじ引きが行われた。
僕たち心研はステージ出演エントリーする文化部5チーム中5番目という結果となった。
「M〇グランプリとかも順番は後の方が点数が高くなりやすい傾向にあるからこれは逆にラッキーだ」
「そうだぞ。仁科ちゃん。きみのおかげだ」
「でも、生徒会は文化部枠じゃなくて特別枠だから結局ステージ演出の大トリは生徒会なんですよね?」
「それだ。だから生徒会は悪なんだ。僕たち文化部の演出をすべて前説、いや、かませ犬にしようとしてるのが気に食わない。だから、潰すんだよ。生徒会を。悪を」
「さっきからかっこいい言ってる風だけど、言ってること全然かっこ良くないからね!?」
「アンチヒーローの宿命だな」
「あなたの場合、ただのアンチでしょ」
「あのー……」
野々垣がおそるおそるといった様子で手を挙げて会話に入る。
「ん?どうした?」
「うちの、生徒会ってそんなに悪い人たちの集まりなんですか……?」
「まぎれもなく悪だな」
「柚桔ちゃん、これは違うからね?これは陽希の一方的な私怨であって生徒会がみんなに恨まれてるとかはないからね?」
「おい、桃花。僕のかわいい後輩に間違った情報を与えるな」
「間違ってるのは陽希ャ先輩なのでは……?」
「まあそんなことはいい。明日もこのパフォーマンスができれば大成功だ」
「私も出るんだからそうならないと困るわよ」
小石川先生が不敵な笑みを浮かべそう言った。
「そうですよ!しかも、1週間ちょいの練習だったけどみんなでそれなりに頑張ってきたからな」
「『それなり』って前置きいらなくないですかね……?実際、『それなり』なんですけど」
「うーん。何回か通してみんなで確認してあとは部室で適当に駄弁って解散みたいなかんじだったのは事実だよね……」
「休日みんなで練習みたいなこともなかったわね」
「実際、最初から結構上手くいってたからな。まあ、そういう人選を選んだ僕の慧眼なんだがね」
「じゃあ杜若くんは別に数少ない人脈を使って人を集めただけじゃなかったのね?」
「そうだよ!数少ない人脈というか脈もないようなレベルのところから何を生み出せるか考えたうえでの最善なんだよこれは!」
「開き直り!?しかも卑屈すぎる……」
「これは開き直りなんかじゃない。僕は努力なんかしたくないんだよ。だから、競争のないところを張って最低限の努力で勝ちをもぎ取る」
「それがこのアイドルステージってことなんですか?」
「そうだ。虎の威を借りる狐だってのはわかってる。でも、これが最適解だ」
「当初の作戦ならそうだったかもねー」
「まあ、猫くらいにはなれたんじゃないかしら」
「え?」
二人は何を言っているのだろうか。
というか、猫と狐って同レベルじゃないの?
「杜若くん。自信を持ちなさい!」
「そうですよ!陽希ャ先輩!」
「だからみんな何を言って……」
「杜若くん」
「え、何ですか?」
急に仁科さんが僕の言葉に被せてきてつい敬語になってしまう。
「明日、成功させましょう」
「え?あ、ああ。もちろん!」
仁科さんの突然の言葉にしどろもどろな返しになってしまった。
「心研!ファイト―!!」
「「おー!!」」
突然の桃花の謎の掛け声に野々垣と先生も盛り上がる。
3人が盛り上がってる中、仁科さんが僕のそばに寄ってくる。
「みんななんだかんだ楽しんでいるのよ」
「そうなの……かな?じゃあ、きみも?」
「ここまでやっといて今更?何が悲しくて面白くもないことに貴重な青春を費やさないとダメなの?」
「そう……だな」
この企画は僕が突っ走ってしまってみんなは本当はどう思っているのかが結構気がかりなのは正直言って終始感じていた。
だけど、みんなの様子、そして、仁科さんのお世辞かもしれないけどその言葉に僕は少しだけ救われた気がした。
泣いても笑っても明日が本番。
壮行会まであと1日!!
だから、この表現バッドエンドぽいなおい!!
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