第32話 イロドリセンター
放課後。
あの日から僕たちは部室で連日、ステージ出演の準備をしていた。
「短期間での練習とは思えないほどの出来ね!顧問として誇らしい限りだわ。あとは、杜若くんだけね」
「そうですよ陽希ャ先輩!だいぶリズムはとれてきてますけどそれ以前に女装して踊るんですから身なりには気を遣わないとダメですよ!!」
「陽希ぃ、見せパンにしたってこれはアウトでしょ~」
「でも、杜若くんは気になるけど全体としては意外と素人目だけどだいぶできてるんじゃないかしら?」
「むしろ陽希はいらないのでは……?」
「あんたらが需要あるって言ったんだよ?」
僕たちは今、部室で自分たちの踊った映像を見ている。
仁科さんがどこからか持ってきたプロジェクターを使って部室のスクリーンに映し出している。
「だいたい小石川先生の持ってきた衣装僕だけスカート短すぎない……?」
「それは杜若くんが仮にも男の子だからよ」
「いや正真正銘の男だよ!!」
どうでもいいけど小石川先生はなぜルミルピのデビューシングルの衣装を人数分どういう経路で入手したのだろうか。
かなり気になる。
「そもそも杜若くんってこの中では身長は3番目よね?」
「バカっ!ちょっ、仁科さんバカっ!!小石川先生には負けてるかもしれない。でも、さすがに桃花よりは僕勝ってるでしょ!!」
「僕は170だぞ!」
そうだ。
僕の身長は170cmだ(四捨五入)
「私の身長は169cmよ」
「ちょっ!先生!?」
「ちなみに私は四捨五入せずに160よ」
「仁科さん!?」
「どうする陽希?私の先に言っちゃう?それともあんたからにする?」
桃花がニヤニヤしてそう言った。
「そんな安い挑発に僕が乗るとでも?こんなの口だけならなんぼだってごまかせる」
「じゃあちょっと背向けて」
「え?」
「いいからっ♪」
「あ、ああ」
言われた通り桃花に背を向ける。
ぴたっ。
「みんなどう?」
「ちょっ!おまっ!?」
「何で離れちゃうのよ~」
桃花が口をとがらせる。
何、急に背中合わせっちゃてんのこの子?
小学生ならまだしも高校生ならそれはアウトだぞ?
中学生ならセーフか……?
いや、アウトだろ。
ほのかに感じた背中のぬくもりが消えない。
だから、僕は変態か!
「うーん。でも一瞬でしたけど陽希先輩の方が若干大きかった気がしますね」
「マジかぁ~。まあ、陽希の背追い抜いたことないからなあ」
桃花が両手で頭を抱えて崩れ落ちる。
「じゃあ次は私ね?」
「いや、先生の方が大きいですから!いいですって!大人げないですよ!!」
「ちぇー……」
小石川先生が露骨にがっかりする。
いや、あんたなんでやねん。
「ちなみに私は155です!」
「それは知ってる」
「がーん」
ノノガッキーが勝手に落ち込んでるけどまあいい。
それより、桃花はなんなんだ。
ちょっと健全な男子高校生の純情を持て遊ぶのはやめてほしい。
きみ、それ僕以外の男子にやっちゃったら勘違いしちゃうよ?
その点、僕は超理性的だから身の回りのすべての事象を客観的にとらえられるのだ。
ラッキースケベの類には何も反応しない。
僕だからすんでのところで目が覚めたからな。
すんでのところなのかよ……。
「それより意外と陽希ャ先輩の女装かなり似合ってません?」
「陽希、昔は結構中性的だったからね~。今は模範的な地味系男子だけど」
「後半の補足いらんでしょ!!」
「似合いすぎて逆にそれが気持ち悪いまであるわね」
「似合ってんのに気持ち悪いの?」
「杜若くん!文句ばっか言ってないでその魅力的な女装を極める努力をしなさい!」
「えぇ……。いや、実際そうなんだけどなんか釈然としない……。僕が間違っているのか……?」
「まあ、僕は頑張るとして……。それとは別件で、ちょっとした提案なんだがいいか?」
「何かあった?」
仁科さんが言う。
「ああ。みんなちょっとここを見てほしい」
僕がノートパソコンを操作して該当のシーンを再生する。
「あ、私たちがダンスに参加する場面!」
「そうだ!ここでステージの端でMCをする仁科さんと桃花がフラッシュモブ的な感じで2番目のサビに入っていく場面だ」
「ここがどうかしたんですか?」
野々垣がきょとんとした顔で聞いてくる。
「ここでだ!野々垣には悪いがセンターの野々垣と仁科さんを入れ替えようと思う」
「私はいいですけど……」
野々垣はそう言ってちらっと仁科さんの方を見る。
「嫌よ。それにこれだけ踊れている野々垣さんを一番盛り上がる場面でセンターから外すのは愚の骨頂よ」
拒否。
普通に考えればもっともな意見だろう。
僕は一息置き、話始める。
「今回のステージだが桃花はケガを抱えてるとはいえその運動神経は知ってるし野々垣はドルオタだから踊れるのはある程度想定のうえでの作戦だった。あと、先生もそういった経験があると聞いていたし、実際、うまくて驚いた」
「だから、正直、僕の中での懸念は仁科さんだけだったんだよ」
「じゃあなおさら……」
「そうなおさら仁科さんをセンターにしないわけにはいかない!」
「はあ?」
仁科さんが本気で意味が分からないという顔をする。
「じゃあみんなに聞いてみるか?」
「え?」
「フラッシュモブなんて入り方難しいのにこれは凄すぎですよ仁科先輩!」
「そうだよ!私、運動神経にはわりかし自信があったんだけどなあ~。これ見せられちゃうとね~」
「へ?」
二人の絶賛に普段聞いたことのないようなまぬけな声を出す仁科さん。
「仁科ちゃん。あなたがこの部活の部長よ。ドーンとやりなさいよ!」
右手でサムズアップする小石川先生。
「で、でも……」
「だそうだ。世の中いつだって多数派が勝つんだ。きみの負けだよ」
「……いつもマイノリティーに属しているあなたが言うと説得力が違うわね」
「で、どうする?」
「やるしかないでしょ……」
「ありがとう。じゃあ、その方向で進めていこう!」
「実際、菫音よりは陽希の方が私は心配だけどなあ~」
「それですよね」
「わかってるよ!やりますよ!!」
「杜若くん!当日はばっちりメイクしてあげるから!」
「やめてくださいよ……」
壮行会まであと4日!!
……ってこの表現、バットエンドっぽいけど大丈夫ですかね……。
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