第31話 A song for Me! Me? Me!!

 中期壮行会まであと1週間ちょい。

 時間はほとんどない。


 放課後。

 場所はいつもの某部室にて。


 「もう時間はあまり残されていない」


 「そうだね」


 「それは、あなたが計画性もなく私怨だけを原動力に突拍子もないこと言うからでしょ」


 そう言われると返す言葉もない。

 壮行会自体の出演は小石川先生の力でしれっと心研の出演は決めさせてもらった。意外と力あるのなあの先生。


 「それでだ。ルミルピはみんなの賛同を得られたから決定だ。それで選曲だが季節も季節だから夏曲と行きたいところだが……」


 「ルミルピの夏曲踊るの難しいんですよね……」


 「それだ。だから、この曲でいきたい」


 さすが、野々垣察しがいい。

 そして、僕はスマホから音楽アプリを開き、音楽を流す。

 野々垣と小石川先生が盛り上がる。


 「ああ!これ!ルピルピのデビュー曲でしょ!知ってる知ってる」


 「お、桃花知ってるか」


 桃花は聞いたことがあるらしい。

 正直、デビュー曲はルミルピのデビューまでの経緯もあって当時はあまり評価されてなかったりする。その後、アイドル好きな人たちからじわじわ人気が出て、一流プロ野球選手が登場曲に使ったりもして人気に火が付いた形だ。


 「聞いたことはあるわね。何かのCMで流れた気が」


 「そうそう清涼飲料水のだな」


 仁科さんも知ってるみたいだ。


 「この曲は爽やか、かつ、ゆったりとした曲でダンス自体も難易度はそれほど高くない。そして時間の関係上、当たり前だがShort Ver.でいく」


 それでだ。


 「桃花」


 「え?なに?」


 「最初のMCをやってもらいたい。その代わり踊らなくていい」


 「MCはいいとして……。踊らなくていいって何で?」


 「いや、それは……。足、まだ悪いんだろ?」


 「いや、このくらいなら全然大丈夫だよ?」


 実際問題、桃花の運動神経があればこの曲は少し練習すればある程度踊れてしまうのは当然わかっている。

 そして、仮に。

 仮にだ。

 桃花の足の状態が本人の申告通り、このくらいなら本当にたいしたことじゃないのかもしれない。

 でも、万が一ということがある。

 そして、バスケ部の連中からどう見えるのかという問題もある。


 だから、僕はあまり桃花には無理をしてほしくないのが本音だ。

 ここまでさせといてアレだけど……。


 「それに、ここで踊れれば私の足を心配してる人たちに大丈夫だぞってアピールにもなるでしょ?誰かさんにもね?」


 桃花がちょっと挑発気味にそう言った。

 

 少し考える。

 

 「……わかった。じゃあこうしよう。この曲のShort Ver.はサビ、Aメロ、Bメロ、サビで構成されている。そこで、桃花はMCを2回目のサビまで引っ張ってサビからフラッシュモブみたいな形で参加する」


 「うーん。じゃあそれで」


 「MCは私の方がいいんじゃないの?」


 仁科さんがそう言う。


 「それもそうだな……。でも……」


 仁科さんには悪いが、僕は桃花の方が適していると思うのだ。

 全校生徒の前で話すのはかなり緊張する。

 それもこの短期間での準備だ。

 なにより、ぼっちが表舞台で注目されるのは難易度が高い。

 ぼっちにとってはいつだって学校はアウェーなのだ。

 だからこそ、僕は桃花を選んだ。

 彼女ならそういった場はある程度慣れているだろうし、その明るいキャラ、そして、クラス的立ち位置、学校的立ち位置からステージに上がっても多くの人間から歓迎されるであろう。


 「大衆から注目されることに関してはピアノのコンクールで慣れてるから大丈夫よ。もちろん、桃花さんの方がみんなから受け入れられやすいのはわかるわ」


 「でも、桃花さんがこのステージ出演を先導してやってると思われたらそれこそそれを快く思わない人間がいると思う。違う?」


 「……その通りだな」


 「もう!面倒くさいなあ二人とも。じゃあ、こうしようよ!私と菫音ちゃんのダブルMC。私は菫音ちゃんに巻き込まれた。これで文句ないっしょ?」


 「まあ部長の責任は部長代理の責任だからそれでいいわよ」


 「なんのための最高責任者なんだよ!」


 「でもこれをやろうって言ったのは陽希ャ先輩ですよね?」


 「杜若くん。自分の言ったことに責任放棄するのは教師の私の立場からしたらいかがなものかと思うぞ」


 「そもそもあなたが最高責任者じゃないの?この同好会」


 小石川先生は持ち込んできたノートパソコンで事務作業をしながら僕に話しかけてくる。

 というか、先生いたの?

 ぼっち教師だけあって存在感消すのが上手い。


 「とにかくだ!二人がMCをしている間、野々垣がセンターで僕と先生が両脇を固める」


 「野々垣はこの曲なら大丈夫だよな?」


 「もちろんです!」


 野々垣はドルオタということもあり、あまり心配はしていなかった。


 「小石川先生は大丈夫です?」


 「私が大学生の時はマリコデが全盛期でよく踊っていたんだよ。だから、その流れでルミルピも好きだしこの曲なら難易度も高くないしもちろん大丈夫だ」


 「たしか、マリコデの全盛期ってことはー……。4年?、ん、5年前?」


 桃花が逆算しようとする。


 「ちょ、ちょっと望月ちゃんそんなのはいいの!」


 「そうだぞ桃花。詮索は良くないからやめとけ」


 「別に詮索ってほどじゃないんだけど……」


 「ってことで2人はオッケーということで僕もこの曲ならいけると思う」


 「ちょっと質問いいかしら?」


 そう残るは仁科さんなのだ。

 正直、どのレベルまで踊れるかが全く見当もつかない。

 運動神経が極端に悪いってのは聞いたことがないから大丈夫だとは思うけど、実際のところどうなんだろうか。ピアノもやってたということでリズム感も悪くはないだろう。

 そんなことを考えてるうちに桃花が先に答えていた。


 「ん?どったの?」


 「いや、なんか決定事項みたいに進んでるけど小石川先生はいつからこのメンバーに入っているの?」


 「ああ!そういえば確かに!!」


 「仁科ちゃんそれ酷くない!?一年からあなたと一緒にやってるのは私よ……」


 「そ、そういう意味ではなくて……」


 仁科さんが珍しく少し狼狽する。


 そういえば、言ってなかったな。


 「ああ。それはな僕が頼んだんだよ。そもそも心研が目立つためにはインパクトのある要素は積極的に入れようと思ってたから桃花と野々垣を誘った。そして、ここに先生を入れるということでもっとそれは効果的なものになるはずだ」


 「そしてなにより!!」


 「「「なにより?」」


 仁科さん、桃花、野々垣がハモる。


 「小石川先生は僕たちと年代が近く、かつ、ビジュアル的にも申し分ない、いや、完璧だ!!」


 実際、小石川先生は美人なのだ。

 系統でい言えば仁科さんが一番近いだろうか。

 しゃべらなければクールビューティーって感じなのだ。しゃべらなければ。

 この3人と並んでも全然引けを取らないどころか一番まである。


 「杜若くん!!!」


 先生が感涙したにか立ち上がって僕に抱きつこうとする。


 「いや!先生!それはちょっといろいろグレーゾーンだから!!」


 抱き着こうとする先生を僕は両手でなんとか制する。


 「それ普通にアウトでしょ」


 「陽希は何か弱みでも握られてるのでは?」


 「年の差……」


 三者三様の反応を見せる会員たち。


 あなたたち結構厳しくない?


 「杜若ガールズたち嫉妬は良くないぞっ☆」


 「大変不愉快なのでその蔑称やめてください」


 「陽希はガールズがいてもボーイズには入れてもらえないからなあ」


 「その接頭辞の必要性がまったく感じられませんねー」


 「杜若くん……。なんか、悪かったな……」


 「僕、何もしてませんよね?」


 なぜ、僕はここまで言われなきゃならないのだろうか。


 前途多難すぎるがこのメンバーは…………。



 最強だ。

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