第12話 天国と地獄

 偶然の出会いを運命と言い換えてみることで意味をもたせようとする輩がいる。


 運命ならば必然だ。


 だが偶然は必然ではない――


 しかしながら、ボクは今偶然という名の運命に翻弄されている。


 彼の娘が目の前に現れた。


 ボクは彼女が大好きだ。一目惚れってやつだった。


 …………


 小さな部屋――


 頼りない灯に照らされた空間。


「そうなんだよ。どうもボクらの存在を嗅ぎ回っている連中がいるらしくてっさ、それで、使えるコマの数が減ってるんだよ。だからさ――」


 電話の相手に補充要員の催促をする。


「仕方ないじゃないか。そもそもここら一帯をボク一人で切り盛りしろってのが無理な話なんだよ」


 半ば愚痴のような物言いに、電話の相手はため息を付きつつもこちらの要求を受けてくれるようだった。


「――わかった。期待せずに待っとくよ。それじゃ」


 ふぅ……と息を吐いて体を座椅子の背に預ける。


 あの人と話をするのは疲れる。


 何事にも動じないのがボクの取り柄だけど、彼女との会話は嫌に緊張する。もちろんそれを表に出したりはしないけど。


 ――電話越しでこれだ、直接会って話すとなったらどうなってしまうことやら……


 にしても……


 ボクは部屋の壁に目を向けた。


 そこには壁一面に所狭しと並べて貼られた“あの娘”の写真。ボクの想い人の写真。


「……やっぱりかわいい」


 だがわかっている。


 それが許されない感情だということに……


「ボクのモノにできないのなら――」――他人のモノになるのは耐えられない。「ならばいっそこの手で――」


「……っと、もうこんな時間か」


 ボクは押し入れに仕舞っておいた大して好きでもないアーティストのポスターを取り出し、写真の貼られた壁に、それらが隠れるように重ねて貼っていく。


「実験のためとは言えなんでこんな面倒なことを……」


 ポスターを貼り終わるのとほぼ同時に家のチャイムが鳴る。


「はいはーい!」


 今この時期にこの家を訪ねてくる人間は一人。


 玄関の扉を空け、


「いらっしゃい」


 満面の笑み作り笑顔で“モルモット”を迎えるのだった。

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