銀幕
プツンと糸の切れたような音で埃のかぶったブラウン管テレビがついた。
「……昨夜未明、XXX総合病院、精神科病棟の一室で殺人現場が確認されました。」
今日は2020年5月11日、月曜日だ。
――新しい一週間がこんな血生臭いニュースで始まるなんて、ついてないな
床に落ちていたタバコを手に取り、ライターを点けた。
「被害者は宍戸美代さん(46)、女性の胸部には深い刺し傷と骨折が見られ、抵抗の痕は見られませんでした。」
――心臓を一突きかい、躊躇のないやり方だな。相当な覚悟を決めたやつか、頭のイカれたやつの仕業だな
一条の紫が捩じれながら燻った。
「出頭した容疑者は、XXX総合病院に勤務する精神科医の佐々木冬馬(38)、男は現場発見当時に刃渡り15センチほどのナイフを所持しており、犯行に使われたものと見て捜査が進められています。」
――人を殺すにしちゃあ随分とチャチな凶器を選んだもんだ。それで一突き……?どんな力の込め方すりゃあそうなるんだ?
手から滴った血が煙草に染みを作った。
「女性は革命家の宍戸斗真氏の継母でした。」
――革命家。大層な肩書きだな
最近はなぜか増えている。
――4年前からだったか?この名前は随分と聞くようになっていたな
なんども大きな暴動と革命を起こした狂った才能だ。
――さながら革命家の王様ってか?皮肉だな
肺一杯に白煙を吸い込んだ。
「宍戸斗真氏は4日前の5月6日から行方不明となっており、今回の事件と関連があると見て警察が捜査を続けています」
――関連ね。何を隠そうとしているのやら
小さな火が血に濡れて消えた。
「宍戸斗真氏は以前より精神病を患っており、10年以上に渡りこの病院に通院を続けていました。」
――元々、障害を抱えていたってか?だから、今も頭のイカれたサイコパス野郎だってか?
――そりゃあ、そうだろうな。そういう道を歩いていたらどうやったってまともには育たないだろうに、頭のイカれ具合は実際に見ないことにはなんとも言えないな
火の消えたタバコを血の池に浮かべた。
「容疑者の男は宍戸斗真氏の主治医で……」
テレビを消すと、プツンと事切れたような音がした。
部屋の外からは鳥の囀りが聞こえている。
ブラインダーに遮られた陽の光が、部屋を淡く照らしている。
「最近の若者は怖いねぇ」
ポツリと呟いて千切れた紐を引くと、澄みきった蒼い空と色の無い雲の群れが流れていた。
――夏が来る
「今年は熱くなりそうだな、お嬢ちゃん」
扉の向こうで、赤子の産声が響いている。
カーネーション 土嶺あきら @Aquila724
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