神のトリカゴ

@B-type

第一幕


「仕えてなんかいねーよ!」

 そう言って漆黒の着物を纏った少年は社を飛び出す。

「こら、待てアカツキ!」

 その背を追うように社から出てきた青年は、アカツキと呼ばれた少年とは真逆の白い着物を羽織り息を切らしながら足を止めアカツキの背を目で追う。

「逃がさん」

 そう言うと青年は一枚の紙を懐より取り出しそっと風に乗せた。


「またか。」

 外から聞こえる騒々しい声にため息混じりにもらすのは、この土地の守神とされる長髪の男。

「そのようですね。」

 くすくすと笑いながら言葉を返すのはここでは唯一神と対話出来る巫女の血を引く少女だ。

「まぁ、彼奴の言う事もわからぬではないが、、」

 というのは、アカツキは自身の目で見たもの、感じたものしか信じず、対話はおろか見る事も感じる事もできぬ神などには仕えていないと言い張っているのだ。

「ヒナタ行ってやれ」

 やれやれといったように巫女に声を投げる。

 少女は短く返事をし少し嬉しそうに後ろで束ねた黒い髪を揺らしながらその場を後にした。


 社を飛び出した後、アカツキは石段を少し降り林の中に身を隠す。この社は土地神を祀るという割りには人里離れた山の奥にあり、このような場所までわざわざ足を運ぶものはそうはいない。

「この青い空は本当にずっと続いてんのかな。」

 ふと空を見上げ、なんの気無しにそう呟くとすぐさま今日の逃げ道を思案する。

 よし、そう呟くとアカツキはまた走り出す。


 穏やかな風に乗り流れ、時折不規則な動きをしながら揺れ動く一枚の紙切れは小さな人型を模しており、目的のモノを見つけると悟られる事なく取り憑き動きを止めた。


 アカツキが山中を流れる小川に着く頃にはすでに先客がおり、ソレはこちらに気付くなり目を向けたまま自らの肩を指さす。

「だー!また式神かよ!」

 アカツキの肩にはぺたりと人型の紙切れが張り付いていた。

「卑怯だぞトウマ!」

 トウマと呼ばれた青年は呆れたように口を開く。

「そもそもお前がお勤めをサボるのが悪い。」

 トウマはアカツキの傍に寄りその肩から式神を回収する。

「お勤めったってほとんど掃除じゃねーか」

「それ以外に何かできるのか?」

 アカツキは苛立ちから引き攣った笑顔をトウマに一瞬向けたのち素早い動きで腰に下げた木刀を振り抜く。しかし、狙ったはずの獲物を捉えることなく辺りには空を切る音が響いた。

「そこまでお仕置きをご所望か。それなら…」

 いつの間にかアカツキの背後を取り、手には複数の人型の紙を持ち今にもこちらに解き放とうとするトウマがいた。その顔はアカツキ同様引き攣った笑顔を浮かべていた。

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