人鳥パンダ

 僕が綺麗だと言って見た朝日に

 君はありがとうと言って涙を流した。

 真っ赤に染まった景色に

 僕らは手を繋いだ。


 僕は旅をしていた。なぜ自分が旅をしているのかも分からず。僕自身が誰なのかも分からず。

 山を越え、川を渡り、砂漠を抜けた。

 雪山に辿り着いた途端。僕の意識が遠のいた。僕の最後はここか。


 目を覚ますと、僕はベッドの上に居た。隣には老人が居て、僕と目が合う。


「起きたか。」


 そう言うと、老人は僕に水を飲ませた。

 また僕は深い眠りについた。


 目を覚まし、旅の準備をした。ずっとここにいる訳にはいかない。老人が寝ている間にここを出ようとしていた。すると、


「これを持っていきなさい。君の役に立つ。」


 老人は後ろにいた。僕は小袋を貰い、出発した。


 街につくと、そこには異様な光景が広がっていた。人間が奴隷として売られていた。僕はその様子を見ていた。奴隷としての人間が運ばれている。僕はその中の一人の少女と目があった。

 僕の体はその少女めがけて走っていた。僕は少女の手を取り、その場から逃げ出す。すぐさま追手が追いかけてきたが、ずっと走った。走り続けた。


 随分と走った。そこは広い草原だった。もう追手は来ない。少女は僕を見て、


「どうして。」


 とだけ言った。

 それは僕にも分からない。ただ、本能がそうしただけだった。

 少女は浮かない表情を浮かべる。


「無駄なの。」


 少女は続けた。

「私、さっきの街の魔女に魔法をかけられててね。あの魔女に逆らうと、殺されちゃうの。たとえ世界の果てに逃げたとしても。」

 僕は悪いことをしたと思った。けれど、涙は流れなかった。


「けどね、嬉しかった。誰かに助けてもらったことなんて、初めてだったから。だから嬉しかった…。だから、もう少し生きたいと思っちゃった…。」


 彼女は堪えていたものを解くかのように、泣いた。


 夜が明ける。彼女と僕は朝日を眺めていた。

「夜が明けるね。私はもうすぐ死んじゃうけど、君のことは忘れないよ。初めて助けてくれた、私の王子様だから。」

 彼女はもう泣かなかった。そして倒れた。

 僕の目は涙で溢れていた。彼女の笑顔をもう一度見たいと思ったから。彼女の話をもう一度聞きたかったから。彼女と、ずっと一緒に居たいと思ったから。

 僕はポケットに入っていた小袋を開けた。中には紙と小包が入っていた。僕は紙を読む。

「涙を流した時、初めて大切なものを知る。」

 そう書いてあった。僕は、小包の中の薬を彼女に飲ませた。

 彼女は目を覚ました。


「また助けてもらっちゃった。」


 僕はもう彼女を離さないと決めた。

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人鳥パンダ @kazukaru

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