これだからマスゴミは信用出来ない

@HasumiChouji

これだからマスゴミは信用出来ない

「ともかく、昨年、私が受けたインタビューを元にした記事は、私の意図を正確には伝えていない。すぐ訂正記事を出して下さい」

 私は、新聞社にそう電話した。

「すいません。御迷惑をおかけしました。では『先生は、○○ウイルスの治療薬であるアマビエンの副作用についての試験や確認が不十分である事を、昨年のインタビューの時点で危惧されていたが、我々××新聞が、その意図を十分に伝えられなかった』と云う方向で訂正記事を出させていただきます。では、訂正記事の第一稿が上がり次第、先生にメールで送付しますので」

 私は、あの○○ウイルスの大流行が始まるまで、アメリカの△△大学の医学部の研究者だった。しかし、我が国でも○○ウイルスの大流行が起きた直後、政府の専門家会議のメンバーに選ばれ、帰国する事になった。

 その直後に、××新聞のインタビューを受けた。

 しかし、官僚や他の専門家会議のメンバーから聞いた話だと、私がアメリカに行っている間に、××新聞は、かなり質が落ちてしまっていたようだ。私がアメリカに行く前には、あまり聞かなかった言葉だが、俗に「マスゴミ」と呼ばれる報道機関の代表格になっていたらしい。

 そして、そのインタビュー記事の中で、私が治療薬のアマビエンが○○ウイルスの治療に有望であると勧めたかのように、書かれてしまった。そう、後に副作用が大問題になったアレだ。しかも、その事を知ったのは……我ながら迂闊にも程が有るが、つい最近だ。

「それは、そうと、貴方の御名前と所属部署を伺いたいんですが……。インタビューを受けた時の担当の記者さんじゃないですよね」

「あ……申し訳ありません……。先生へインタビューを行なった青木は……その……」

「何か有ったんですか?」

「死にました……○○ウイルスに感染して……」

「えっ?」

「あ……私は、科学部所属の……」


 訂正記事は確かに出された。しかし……問題は、それでは終らなかった。

「科学部の赤星を出せ〜ッ!! すぐに出せ〜ッ!! 専門家会議の金子だと伝えろ〜ッ!!」

「は……はい、代りました……。あの、先生、どうされました?」

「なんだ、あのXXXtubeとPPP動画にUPされた、俺のインタビューの音声はッ!!?? !!」

「あ……ちょっと待って下さい……。我々も、その件は確認中でして……その……」

「あれは、お前らがUPしたのかッ!!??」

「ち……違います……我々も今日になって……えっ?……すいません、ちょっと待って下さい」

「おい、何だ、時間稼ぎかッ? フザケんじゃねぇ〜ッ!! ブッ殺す……」

「あ……先生、あの音声をUPした人物から……何と言いますか……犯行声明のようなモノが、ついさっき、届きました」

「はぁ?」

「あの音声をUPしたユーザーが次にUPした動画を見れば、何故、あんな真似をしたのか判るだろう、と……その」


「金子先生……昨年、貴方にインタビューした○○新聞の記者・青木の夫です……」

 動画サイトの画面には、疲れた顔に、黒い礼服に黒ネクタイ……早い話が葬式の時の格好だ……の中年男が映っていた。

「私の妻は……○○ウイルスに罹患して死にました。ただし、直接の原因は……○○ウイルスによる症状ではなく……治療の為に投与されたアマビエンの副作用です……」

 ……い……いや……ま……待ってくれ……。

「妻は……最後まで、先生の言った事を信じていましたよ……。副作用による症状が出てもね……」

 混乱して、普段の10%も働かなくなった私の頭で理解出来たのは……多分、これで、私の研究者としてのキャリアが終るであろう事だけだった。

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