前世でも転生したこの世界でもボクは独りのようだ(仮)

月珊瑚

序章 転生した世界で早々に独りになってしまった

 僕には誰もいなかった、両親も小学生になる前に交通事故で他界し、叔父も叔母も僕を疎み、身寄りの無かった僕は父の妹に引き取られ不自由なく、とは言えないもののそれなりに幸せな生活を送れていた。

 しかし僕が中学を卒業する直前に父の妹、僕を引き取ってくれた伯母さんが病に倒れ、すぐに他界した。

 僕には頼れる人も居らず、アルバイトを転々としながら奨学生制度や親の遺産などを使い大学を出て、銀行に就職することができた。

 そしてあれよあれよと昇進を重ね地方支部の支部長を任されることになった。

 そして今日もいつもと同じように社宅に帰るために電車を駅のホームで待っていた。そして電車が駅のホームに近づいたのを知らせるアラームがなり、電車は僕の視界にも入った。スピードをあまり落とさないまま駅のホームに入ってくる電車を見ていたとき、


 ドンッ! と後ろから線路上に押された。


 身体が空中に投げ出されたかのような浮遊感が身体を包み込み、今まで身体を支えていた地面を感じなくなる。

 電車の迫る音が聞こえる。

 死を直前にして人は走馬灯のように記憶がフラッシュバックすると言うがフラッシュバックするほどの記憶も無いのか、ひたすらに思考が引き伸ばされるだけ。

 視線の先には僕を駅のホームから線路に押したであろう同僚が人混みにそっと紛れ込むようにしながらこちらを見る。

 してやったと言う満足げな表情を浮かべ、糸目を開き真っ黒な瞳に野心の炎を浮かべながらその口を弓なりに曲げる。

 徐々に迫る線路と電車に僕はそろそろ死ぬのか―――と他人事のように考えながら自分の部下や、僕が死んだ後の人事について考えようとするがすぐ間近に電車が迫る。

 ゆっくりと電車の方に顔を向ければ運転手と目線が合った、彼にはトラウマを植え付けてしまうことになってしまうだろうとこれまた他人事のように考えながら僕は瞼を閉じた。

 次はどんな人生を送るのだろうか、そう思ってる今の僕の記憶はないのだけど、と最後の最後でそんなくだらないことを考えて三十年も行かない僕の短い生涯は幕を閉じた。



 ここはどこだろうか、靄がかかったような朦朧とした意識で霞んだ視界で僕は回りを見ようとするが、うまく首が動かず、さらに視界もなぜか悪くて周囲をしっかりと見ることが出来ず少し焦りを覚える。


「―――――」


 死んだはずの僕はギリギリで生き延びたのだろうか? よくわからないが、ここがなんなのか僕はどうなったのか、それらのことについてどうにかして情報を得ようとするが、なぜか聞こえにくい耳に誰かの喋り声が入ってくるが、耳に入ってきたのは僕が一度も聞いたことのない謎の言語。


「―――」


 そして僕も喋ろうとしていつものように喋れないこと、そして身体も自由に動かせないことに気がついた。

 腕や脚を何かで拘束されているわけでもなく、やけに腕や脚が重い。


「――――――」


 焦る僕はどうにかして身体を動かそうともがいていると上から見下ろすように僕の顔を見つめる短めに切られた銀髪にぱっちりとした翡翠色の綺麗な瞳をした女性の顔が現れた。

 その瞬間、僕は彼女の子供なのだと本能的に理解した。

 魂の繋がり、とでも言うのだろうか? そうとしか表現ができないような根本的なところでうっすらと繋がっているような感覚に違和感を覚えながら僕は記憶を引き継いでいることとあまり見ない髪色と瞳の色にどこの国の人間かと考えていると不意に僕は体ごと持ち上げられ、一気に視点が高くなる。

 おそらく抱き抱えられたのだろう、自分が赤ん坊なのだとわかっていればこの女性の行動も理解できる。

 しかしその後に見た光景に僕は息を呑んだ。

 おそらくは僕の父親――新たな人生でのだ――が何かを呟いたと同時に何も無い空間に火玉が現れそれが唐突に掻き消えたかと思うとまた何かを呟き、次の瞬間には水の塊が現れてそれは空中にとどまっていた。

 その光景を見たとき、僕の前世の記憶の中にある、ゲームやWeb小説などでよく登場した〈魔法〉という言葉が頭の中に浮かんだ。

 ここは全く知らない異世界だと、僕は日本で死んで全く別の異世界に転生したのだと、そう理解してしまった。


 *


 僕がこの世界に生を受けて六年。

 転生したこの世界の技術水準は日本と比べるとかなり低く、第一次世界大戦前の技術で、硝子などはあるものの電気はもちろん、機械もなく、光は〈魔道具〉と呼ばれる魔法を誰でも使えるようにするもので、平民にも普及している。ちなみに僕は貴族ではある、爵位は最も低い男爵だけど。

 僕は母親に似た銀髪と翡翠色の瞳の美少女として親交のある貴族達の間では有名になっており、リーナと両親から名をもらい、アルブレア男爵家の長女として不自由なく、とは言えないものの中々に充実した日々を送っていた。

 そう、この世界に転生した僕の性別は変わっていて前世では男にしておくのが勿体無いだとか、女性より女性らしいなんて言われていた僕はついに女になってしまった。

 最初こそ慣れなかったものの貴族令嬢になる僕はマナーや立ち振舞いを優勢して覚えたお陰かどこに出しても恥ずかしくないと家庭教師にお墨付きをもらえたほど令嬢姿が板についた、と言ってもまだまだ子供な訳だが。

 そして令嬢としての立ち振舞いを学ぶついでに他のことまで勉強をしていたせいか、同年代の子供がようやく文字の読み書きをまともにできるようになっているなか、僕だけは子供特有の吸収の速さと大人の理解力を存分に使いどんどんと、この世界の言語や成り立ち、地球ではなかった魔法やステータスと言ったゲームのシステムのようなこの世界の摂理を覚えていった。

 しかし、ただの子供――そう思われているだけ――が他の子供の数倍の速度で人格を形成し、知識を深めていけば大人は不気味がる、と思っていたのだが数百年に一度の逸材だと持て囃され次々と知識を詰め込めさせられたのだが、それをどんどんと吸収していくのを見て面白くなってきたのか周りの大人の要求は加速度的にエスカレートしていった。

 と言うのも僕の産まれた家は貴族、爵位はあまり高くなく男爵という下から二番目の立ち位置だったが僕を利用して上手く爵位をあげようと言う算段だ。

 なぜそう言い切れるかというとこっそりと両親の会話を盗み聞きしたのだが、その時に話していたのは僕を伯爵家や公爵家に嫁がせ自分達の地位を相対的に上げようだとか、王に使えさせ自分達の爵位が上がるようにしようだとかそんなのだった。

 僕が産まれ三歳になるまではごく普通の善良貴族だったのだが、僕が数百年に一度、とまで言われるほどの逸材だとわかってからは僕を利用してより良い生活をしようと画策する毎日で子と過ごす時間も大幅に減った。

 僕としてはそんな両親にこのままだといいように利用されるだけなのはわかっていたが、産みの親にそこまで強く出れる訳もなく、さすがに危なそうな魔法の使用や強引に許嫁を作られるのだけは阻止をしていた。

 

 それから一年後のとある日、アルブレア男爵邸に盗賊が大挙して押し寄せた。

 ボクは地下の隠し部屋に押し込められ両親は盗賊と戦った。しかしただの貴族、しかも戦闘経験すら無いような両親と人を殺めたこともあり、ステータスが高くなった盗賊とでは戦いになるわけもなく、両親は盗賊に殺され家にあった宝石等の貴重品に現金、金になるものは根こそぎ奪われ残ったのは血生臭い屋敷とボクが持っていた一ヶ月生きられるかどうかと言った現金のみ。

 幸いにも盗賊たちも細部までは探さなかったのか至るところから隠してあった宝石や金品、果ては魔道書まであった。

 ボクはそれらを売ってお金にし、血生臭くなってしまった屋敷を綺麗に掃除し、両親を埋葬して、一人暮らしていた。

 その後、国に周囲の住人がアルブレア男爵家に盗賊が押し入り、男爵令嬢以外の使用人も含めた10人が殺された。と報告し、ボクは国王に一時的に引き取られ両親のしていた税収の管理を任せるために王城で学び、ボクが14になった日に、国王直々に税収の管理を言い渡された。

 批判もあったが四大公爵の半数から支持を得れたボクは新たにこの家の当主として認められ、アルブレア男爵として今まで両親がしていた仕事を引き継ぐことになった。

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