第5話 双竜激突!

 普段は人々が神に祈りを捧げるために作られた教会で争いを起こす不敬な者達がいる。皮肉にもその者達は神自らがこの世に生み出した者達であった。


 「あー!もうさっそくサラマンダー様が揉め事を起こしているよ!」

 「まったく、我らが王は喧嘩っ早いところは九竜の方の中では随一であるな。」

 「おー。やっと来たか。遅いぞ!『ジン』!『ブリジット』!」


 教会の破壊された扉から二つの影が現れた。

 一人は背中に赤い刀身の剣を背負った女性。オレンジ色の長髪に整った美しい顔。それに似合わないようなごつごつとした赤茶色の胸当てと腰当。腹や足には美しい小麦色の肌が露になっており、防御を固くしているのかわからない。

 もう一人はドレイクよりも大きなガタイで褐色の肌。黄色、赤、黒と派手な服に坊主頭に強面の顔。その頭からは大きな羊のような角が後ろ向きに生えている。


 「ここに着くなりいきなりどこかへ行ってしまったのは誰ですか!!もう、めちゃくちゃ探したんですからね。」

 「然り、何とか魔力の強いところを探そうと思っても、この『ユグドラシル』から発せられている膨大な魔力量によってそれも叶わず、闇雲に探し回っていたところここが爆発したのをみてようやくたどり着いたのですぞ。」


 ジンとブリジットはやれやれといった様子でいう。


 「な、なにが。もう何が起こっているのかわかりません!!」

 「わー、見て。ハリス。角生えてるあの人。抜いてあげたほうが良い?」

 「なに言ってるの?ねぇさん!?しっかりして。」


 さらなる来客によりハリスは混乱を引き起こし、一方のマリアは相変わらずの反応だ。...まじでさっきの爆発で頭打っただろ。


 「あー、そうだったっけ?まぁいいやちょっと加勢してくれや。」

 「え?いいんですか?やった!ずっと戦えてなかったからもう体がなまってしまって。」

 「ふむ。私はブリジットほどではないが相手が貴方ということであれば一度手合わせをしたいところ。」


 意気揚々と剣を抜いているブリジットと肩と首をぐるぐると回すジン。

 (厄介だな。あれは見たところ高位の悪魔か精霊...勝てないわけではないがドレイクを相手にしながらだときついな。)


 すると、カシャフとブリジットとの間に、セバスチャンが割り込んできた。そして手袋をぎゅっと引きながら


 「ふむ。こういうことになっては私も動かないといけませんね。旦那様ほどではありませんが、楽しませてあげましょう。」

 「大丈夫?おじいちゃんやめときなって。私たち手加減はできないよ?」

 「いえいえ。お気になさらず。どこのだれか知れぬわっぱに負けるほど老いてはいませんよ。」

 「ほう?随分と自身がお有りなのですな。ご老人。では、我らも本気で参りましょうぞ!」


 ジンが拳を構えるとセバスチャンも同様に拳を構えた。ブリジットは先ほどまで乗り気だったのだが、やはり老人相手だと気が引けるようで、剣は抜いているが構えていない。

 にらみ合う両者。先に動いたのはジンだ。一瞬でセバスチャンの横に移動し、首元に手刀を繰り出す。が、それはいとも簡単に掴まれた。


 「もしや、これが全力というわけではないですよね?」

 「...あいすまぬ。口ではああ言ったがやはりご老体に本気は出せなんだ。大人しくこれで眠っててくれればよかったのだが...」

 「…先ほどから老体老体と...。なめるのも大概にしておけ。小僧...。」

 「っ...!」


 先ほどまでの雰囲気と違う雰囲気に気づいたジンは驚愕した。ただの老人の後ろに巨大な骸骨がこちらを見下ろしている姿が見えた。驚いたのはそれだけでなく、掴まれている腕を振りほどこうにも動くことすらできない。

 そして、ゆっくりとセバスチャンが空いている拳を振り上げ、ジンの顔にめがけて振り下ろす。

 拳が物にぶつかった音が鳴る。しかし、その音は肉を殴る音ではなく、金属の音だ。


 「ちょっと、ジン?油断し過ぎじゃないの?」

 「すまん。だがこれで分かった。」

 「ええ。確かに楽しめそうね。」



________「おー、おー、あっちはもう盛り上がっているようだな」


 サラマンダーが笑いながら言う。マリアの近くから引きはがすのには成功したが、今になってさらなる問題が生じた。それは本気を出してしまうと正体がばれてしまう恐れだ。

 カシャフは毒竜の名の通り毒の魔法を得意としている。ただ、この毒の魔法を使うものは魔族、人間合わせてもそうそうおらず、それを極めているものなどこの世で思いつくのは一人しかいない。

というわけで


 「悪いな。マリア、ハリス。少しだけ眠っていてくれ。」

 「え?レルネーさん?」

 「夢見の粉ドリーム・パウダー


 マリアとハリスに手をかざしヒュドラが魔法を唱える。手の先からピンク色の粉が噴出し2人を包む。すぐにハリスが緩やかに瞼を閉じ、マリアの上に覆うように眠った。


 「はっ!いつからそんなにお優しくなったんだ?…もしやほんとにその女に惚れたか?」

 「お前には関係のない話だ...。来い『死神の大鎌デスサイズ』」


 地面から黒い渦が発生しその中から現れた成人男性一人分ほどの長さの漆黒の大鎌。その黒刃にはまるで氷水につけられていたかのように霜が絶えずついており、よく見ると人のような骸骨が無数に刃から浮き出ている。


 「ひゅ~。久しぶりに出したな。いいねぇ。そうこなくっちゃなぁ!!」


 上機嫌になったドレイクは笑みを浮かべながら、カシャフへと突っ込んだ。右手の拳でカシャフの腹を狙う。もちろんそれをカシャフは防いだのだが、その音は拳で殴ったというよりも爆発音に近いものだった。現に大鎌からは火花が飛び散っておりその威力の大きさが窺える。

 負けじとカシャフも大鎌で応戦する。『肉体』対『刃物』争えばどちらが有利かは子供でもわかる自明の理。だが、それは彼らには通用しない。

 迫りくる刃にドレイクは掌底やその拳で器用に峰をうち、弾き飛ばしていた。


 「相変わらずの馬鹿力め!!『蠱毒こどく』!!」


 若干よろついたカシャフは反撃に右手をかざし少量の液体を出す。ドレイクがそれをバク転でかわす。液体が壁に着いた個所からは何かが腐ったかのようなにおいが出てきた。


 「毒の高位魔法か?今までに見たことのないやつだな。」

 「俺たち九竜には全ての状態異常バッド・ステータスに耐性をもっているからな。それをすり抜けることができる俺のオリジナル魔法だ。あたると痛いじゃすまないぞ?」

 「うははははははは!!!!いいねぇ。熱くなってきたじゃねぇか!!!」


 ドレイクの体が発火し、黄色い目がまるでトカゲの眼のように変化した。顔や腕、足にはウロコのような模様が現れ、教会を照らしていた蝋燭の蝋がスライムのようドロドロと溶けてしまった。


 「お、おい。いくらなんでも半竜化メイクオーバーはやりすぎだろ。場所を考えろ!!!」

 「だから何だってんだよ。いま!この時を楽しもうぜ!!!」


 くそっ!マリア達を巻き込まないように範囲の狭い魔法を選んだのにこれじゃあ意味がない!ああなったらドレイクは止まらない。こっちも半竜化メイクオーバーするか?いやそれだと逆に悪化する可能性が…。

 そう考えている間にドレイクが何やら赤く光る球体を作り、その大きさはどんどん大きくなっている。


 「お前!!それは『核の超位熱線ニュークリア・ノヴァ』だろ!この辺りをすべて吹き飛ばす気かよ!!」

 「久しぶりにガチの喧嘩だぁ。楽しみだなぁ?おい!」


 だめだ、全然話を聞いていない!もうこうなったら後のことを考えている暇なんてないぞ!


 「くそトカゲが!後で覚えていろよ!!『半竜化メイクオーバー...』」

 「「ちょっとまった~~!!!」


 先ほどまでセバスチャンと戦っていたジンとブリジットが大慌てでドレイクを抑え込んだ。火球をブリジット、ドレイク自身をジンが抑え込んでいる。


 「ジン!はやく瞬間移動テレポートの準備を!もうすでにきついんだけど!!」

 「弱音を吐くな!もうやっておる!あとは座標を合わせるだけだ!」

 「ヒュドラ様...すいません後のことを任せてもいいですか?私たち、この方を止めるのに精一杯なもので...」

 「あ、あぁ。任せろ。」

 「よし!座標を特定できた。では、ヒュドラ殿申し訳ありませんが後のことは頼みました。『瞬間移動テレポート!」


 彼らが去ったあと、明かりドレイクがいなくなったため、教会内が真っ暗となった。外では何やら先ほどよりも騒がしい雰囲気となっている。おそらく先ほどの戦闘で流石に気づかれ、火事だと思って騒いでいるのだろう。

 ハリス達には悪いがここで俺が見つかると面倒なことになるから逃げさせてもらう。さて、後の言い訳を考えなければいけない...。


 「ヒュドラ様...なんですか?」


 恐れていたことが起きてしまった。俺は聖女の力を軽視してしまっていた。俺のかけた魔法は彼女にはかからず、ずっと

 知られてしまった。俺の正体を...

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毒竜は聖女に恋想ふ 黄田毅 @kida100

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