第4話 火竜襲来

 マリアと約束した夜がやってきた。この日は聖冠式の最終日で、夜中でも街中は未だにその喧騒さが残っている。

その中で人通りの少ない道にへと外れていく男が2人、ある酒場へと入っていった。


 「たしか、この店ですね。中には何人かお客がいらっしゃいますが、どなたが案内人でしょうか?」

 「まぁ、とりあえず待ってみればわかるだろ。」


 カウンター席に座り、店主に酒を頼む。もちろんお代はセバスチャン持ちだ。それから30分過ぎた頃。カシャフの隣に白フードの男が座ってきた。


 「あなたがレルネー様ですね?」

 「あぁ。その名を知っているということはお前が案内人か。」

 「はい。ハリストス様から聞いております。さぁ、まいりましょうここでも人目がありますゆえ。」


 そういって男は店の外へと出ていき、俺らもそのあとに続いていった。その男は街のことを熟知しているようで、さっきから見事に人のいない道を通っている。そして最終的に連れられて行ったのは…


 「教会かよ。」

 「はい。人は皆祭りで夢中になっておりますし、この日のこの時間はめったに人が来ないのです。」

 「この中にマリアがいるのか?」

 「はい。弟様の『ハリストス』様もいらっしゃいます。」

 「なるほど。案内ご苦労だったな」


 そういうと男は姿消していった。やはり暗殺者アサシン盗賊シーフといった職業のものか。しかも見た感じはかなり熟練のものだ。

 そして教会の扉を開ける。入って目に入るのは大きな十字架。窓から差し込んでいる月の光によって何とか周りが見える。長い椅子が十数個置かれていて、そこにうっすらと影が2つ目に入った。


 「レルネー!来てくれたんですね。」

 「お、おお。マリア、待たせてしまったみたいで悪いな。…少し暗すぎないか?」

 「申し訳ございません。明かりをずっと照らしていると気づかれてしまうかもしれなかったので、ですがお二人が話すのに多少の明かりはあったほうがいいですね。」


 そういうとハリスは指を鳴らす。そうすると教会内の壁や天井からぶら下がっている燭台にある蝋燭に火が灯り、周りの景色がようやくはっきりと見えるようになった。


 「おーすごいな。その感じだと結構鍛錬積んでいるだろ?」

 「えぇ。これでも祭司長を務めておりますので。」

 「ねぇねぇ。わたしのことわすれてません?」


 マリアがカシャフの肩をトントンとたたきながら不機嫌そうな声で言った。


 「あ、あぁすまない。それで俺をここに呼んだ理由は?」

 「え?ただお話がしたかっただけですけれど?」

 「へ?」

 「だって、あのとき見たあなたの強さはまさしく歴戦による賜物ではないですか?」


 キラキラとした目でこちらをじっと見ている。うーん。どうしたものか。こういうときも相手の話に合わせたほうが良い?のか?


 「あぁ!まぁ。確かにこの力を手に入れるまでには壮大な苦労と過酷な戦闘によって手に入れたものだ」


 とりあえずはこの話に乗っかった。てかこれでいいのかな?…まぁいいだろ話がつながりそうだし。


 「やっぱり!ほら見てみなさい?ハリス。私が言ったとおりでしょ?ねぇ、レルネー?よろしければそのお話を聞かせてもらえない?」

 「え?話を?」

 「えぇ!私、実は冒険譚というものが大好きで、本当は自分であらゆるところを見て回りたいのだけれど聖女という立場では難しいの。冒険譚の本も大体のは読みつくしてしまったから新しい何かのお話が聞きたいの。」


 勘弁してくれ。俺は生まれてこの方『冒険』というものをしたことがないんだ。ただ話に乗ってしまっただけなんだ。頼む!助けてくれ、セバスチャン!

 俺はそう願ってセバスチャンに懇願の眼差しを送った。それを察知したのかセバスチャンは親指を上にあげて『分かりました』のサインを出した。流石、200年の付き合いなだけあって察しがいい。


 「マリア様。わたくしは長いこと旦那様にお仕えしていますが、その私でさえ、旦那様の功績は数知れないものです。であるからこそ、そのお話はマリア様をお楽しみさせること間違いないでしょう。」


 違ぁぁぁぁぁぁう!!!!何を理解したんだあいつ!あぁ…マリアの眼の輝きがすごいことになっているよ。


 「そうなんですか?ねぇさんから聞いたときには大げさだと思ったのですが…」


 違うんだ。ハリスお前の考えがこの中では一番正しいんだ。そんな大層な伝説は俺には無いんだ。


 「そうなんです。私の見えていないところで旦那様は頑張っていらっしゃいます!」


  おまえセバスチャンはもう黙れ。ああ…もうどうしたらいいんだよ。


 「…すまない。ちょっとトイレに行きたいのだが、どこにあるのかな?」

 「あ、トイレでしたらそこの階段の下にあります。」

 「え?旦那様に尿意とかってありました?」

 「セバスチャン。ちょっといっしょにいこうか?」

 「え?私は大丈…」

 「い・こ・う・か?」

 「・・・はい、わかりました」


 セバスチャンを連れてトイレへと行く。


 「ハリス。あれがうわさに聞く『連れしょん』ってやつよね?」

 「うーん。そうだけどそうじゃない感のほうが強いような…」


 _____一方トイレでは


 「ええ!?特にお話しする内容が無いのですか!?」

 「いやまぁ、あるにはあるんだが…」

 「なんだあるじゃないですか。驚かせないでくださいよ。それで、どういったものなんですか?」

 「昔、『自由を我らに』って叫んでた人間の義勇軍を一日で壊滅させた。」

 「絶対だめですね…もういっそ無いとおっしゃったらどうですか?」

 「お前、あの顔見てそんなこといえるか?」

 「…無理ですね。」


 ドゴォォォォン!!!!!

 どこからか爆発音が鳴り響いた。それと同時にマリアの叫び声が聞こえた。急いでマリア達がいたところに向かうと、先ほどまでいた場所が土煙に覆われ全くと言っていいほど景色が見えない。

 その土煙の中でマリアとハリスが倒れている。


 「おい大丈夫か?何があった?」

 「分かりません。急に扉が爆発しまして、僕と姉なら大丈夫です。爆風で吹き飛ばされはしましたが、傷の方は特に…」

 「あーびっくりした。祭りの花火でも飛んできちゃったのかな?」

 「のんきかよ。っ!後ろへ下がってろ。なんだかやばい奴が来たみたいだな。」


 この肌に感じる膨大な魔力…。まさかこれほどの魔力を持つ奴がいるのか?扉のあったほうを見ると、赤い光に黄色い目が二つ、上半身は褐色の肌を晒し、下半身は腰巻一枚という軽装。ん?どっかで見たような…


 「よお!つい最近ぶりだな!カシャフ。」

 「げっ。火竜サラマンダー・ドレイク。何でここにきてるんだよ」

 「なんだよ。バスクからお前が面白いことしてるって聞いたからきてやったのによぉ」

 「シュガールのやつ言いやがったな。」

 「ま、待ってください!火竜サラマンダー!?なぜあなたがこの場に?」

 「まぁ、見てハリス。あの人上の服を着ていないわ。追剥にでもあったのかしら」

 「いや、そこじゃないから。ねぇさん。」

 


 ハリス終始慌てふためいた様子なのに対して、マリアは先ほどまでと変わらない様子だ。ってか頭でも打ったか?


 「なんだぁ?人間さっきも言っただろうが。こいつ、ヒュ…」

 「げっほ。なんだいこれはいったい。聖女様が抜け出すのをみて、つけてみればこんな大惨事に遭うなんて今日は厄日だな。」


 緊迫する中。それを遮るように男の声がどこからか聞こえる。すると、十字架の後ろから一つの影がヌッと出てきた。金色のつんつんした髪。白銀に輝く鎧に背中に背負う伝説の剣。


 「勇者ロイトア!?あなたここでなにを?」

 「聖女様の警護ですよ。国王も言っていたでしょう?まったく、勝手に行動してもらわないでいただきたいですね。まぁ、しかし、まずはこの騒動を起こした男からかたずけましょうか。」


マーティレッドが剣を抜く。宝剣かと思うようなきらびやかな剣。左右に整った両刃、刃の峰は多色に輝いている。


 「あ?確かそれは永久不滅の剣デュランダルだったか?ほう、扱えるやつを見たのは久しぶりだな。」


 一方のサラマンダーはその剣を見て感心するもどこか余裕を醸し出している。そして戦いはすぐに始まった。人間の身ではありえない速度でロイトアは接近し、剣をふるう。

 それをサラマンダーはいともたやすく手でつかみとった。


 「おおっ。かなり速いな。しかも、筋もいい。まぁ、ではの話だがな。」


 そういうとサラマンダーはロイトアの首元に手刀し、気絶させた。途中『ゴキン』という鈍い音がしたが生きているか?あいつ。


 「安心しとけ。とりあえずは気絶させただけだ。」

 「おい、それで何の用なんだ。」

 「おおっと。そうだ。忘れかけてた。あーそのお嬢ちゃんか?カシャフのお気に入りってのは?」

 「?お気に入りというのはよくわかりませんが、?レルネーさんではなく?」

 「!!!彼女に何の用だ!」


 慌てている俺を見て、サラマンダーは少し考える仕草を見せた。そして少しするとニヤッと笑い、


 「あ~。すまないすまない。~~?俺としたことがうっかりしていたよ。」


 こいつ俺の事情を察知したな。いつもならとても不快なのだが今回においては俺の名前を言わないあたり今回はありがたい。


 「まぁ、なんだそいつのお気に入りのをつまみ食いしようと思ってな。」


 サラマンダーの姿が一瞬で消え、マリアの後ろに移動した。そしてマリアに手を伸ばした。そのスピードに誰もついていけてなかった。ただ一人を除いて。

 レルネーがサラマンダーの腕をがっしりとつかみ、にらみつけている。


 「何の真似だ?ドレイク。」

 「あ?言っただろう?ちょっと俺にも味わせろってことだよ?レルネー?」


 本気でにらみつけているレルネーとけらけら笑っているサラマンダーの間には火花が飛び散っていると錯覚するほど危険に感じさせられる。


 

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