第3話 雷竜 シュガール・バスク

 マリアと会ったあの日の翌日。街は未だ昨日変わらない賑わいを見せている。俺はセバスチャンがで宿に泊まっていた。

 この金は人間と魔族が共通で使用しているもので、種類は紙のようなものと金属でできたものがあるが価値がどのくらいなのかわからない。

 とりあえずは明日のマリアとの約束を待つために『イザヴェル』を観光することにした。とりあえずはここの主のシュガールにあいさつしに行こうとユグドラシルの根本へと向かう。

この『イザヴェル』という街は面積の4割が木の葉や枝に覆われているのだが、太陽の火が隠れているのに全く影ができていない。さらに驚くことに昼間はこうして明るいのだが、夜になるとちゃんと暗くなるのだ。

 シュガールが言っていたことなのだが、人間たちがこの現象を調べた際に大樹ユグドラシルから光の魔法がでているから木に隠れていても明るいと提唱されていたらしいのだがこの夜になれば周りの景色と合わせて暗くなることがあってこの説はなくなったのだとか。

 今の説は『ユグドラシル』自体に意識があるのではないかとなっているらしいのだが、人間たちは面白いことを考える。

 そうしているうちにシュガールの城へとついた。俺の城と比べると出る言葉は『理想的』。俺はあの城の形が好きで作ったのだが、シュガールの城はいわゆる『みんなが思う城というのはこういう形』を体現したもの。

外壁は白で統一され、中央に一番大きな塔があり、そこから左右に塔が二つずつある。屋根は青色で周りの風景とも相まってより一層美しい景観となっている。

 ユグドラシルの根本に大きな湖があり、その上に城がある。石でできた橋でつながっており、門番らしき男女が2人、橋の前で立っている。

 金髪の長髪。尖がった耳。痩せている体。間違いない『エルフ』だ。たしか自尊心がとても高い種族と聞いたが、シュガールのやつ、いつの間に従えたのか…。

 

 「ようこそ。シュガール様の居城へ。何か御用がおありでしょうか?」

 「シュガールに会いたい」

 「分かりました。ご予約はされておられますか?」

 「ん?予約がいるのか?」

 「はい。ここは人だけでなく我々魔族にとっても重要な場所ですのでお越しになる方がとても多いのでこのような形をとっております。いまから予約されますと最低一年ほどはお時間がかかります。」

 「げっ。どこまで偉いんだよあいつ。あ~すまないがシュガールに『紫髪の男が来た』と伝えてくれ。多分それで通じる。」

 「はい?…わかりました。少々お待ちください。」


エルフの男が駆け足で城の中へと入っていく。


 「予約がいるのですね。私たちの城は予約なしで入れますけれども。」

 「嫌味か?しかしよほど人間、魔族関係なく好かれているのだな。シュガールのやつ。何をしたらそこまで人気になるんだ?」

 「挨拶のついでに聞いてみますか?ちょうどいま必要じゃないですか。」

 「いや、よしておこう。それを聞いてしまったら負けた感じがする。」


 すぐにエルフの男が帰ってきて城の中でシュガールが待っているとのこと。エルフのうちの一人が案内するらしいのでそれに従い城の中へと入っていく。

 城の中はカシャフの城とは真逆の光に満ち溢れている。影が1つすらないように感じる明るさ。それだけでなく城のあらゆるところにステンドガラスがあり、床が色鮮やかに輝いている。

 中を進んでいくと何やら誰が大声をあげているようでエルフの従業員の一人に何か言っているようだ。


 「ですから、シュガール様がお決めになられたことですのでどうかご理解を!」

 「そんな筋の通らない話があるか!こっちはわざわざ予約を入れて待ってたんだぞ!それなのにいきなり順番を差し替えるだと?ふざけないでもらえるか!詳しい理由を言え!」


 エルフに言い詰めているのは金色の短髪に緑色の瞳。白銀に光る鎧を身に纏い、その背中にはカシャフの眼から見ても素晴らしいと思える大剣を背負っている。その男の両脇には若い女性が三人おり、その三人も合わさって従業員に迫っているようだ。

 道案内してくれたエルフが男のもとへと駆け寄り、何かを説明している。すると男はこちらを見て、歩いてきた。


 「君か。僕の順番を飛ばしてシュガール様に面談する『お友達』というのは?」

 

 『お友達』ってなんていう説明をしたんだあいつシュガール


 「まぁそうだ。すまないな。少し挨拶したらすぐに出ていくから許してくれ。」

 「なるほど。どんな無礼なやつかと思ったら、意外と普通だな。いいだろう。この『勇者』そこまで器の小さい男ではない。今回は許してやろう。」

 「ふーん。『勇者』ねぇ…」


エルフに連れられて男の横を通り過ぎていく。そしてある部屋の前に通され、ここにシュガールがいるとのこと。

 一応ノックをして部屋の中に入る。


 「やぁ。ここに来るなんて珍しいじゃないか。カシャフ。何か用事でも?あ、ワイン飲むかい?良いのがあるのだが。」


 金色の長髪をたなびかせている男がデスクで書類整理をしていた。彼がこの国の管理者『雷竜シュガール・バスク』である。


 「一杯もらおう。この街に来たからとりあえず挨拶でもしようと思っただけだ。」


 立ち上がり隣にあった戸棚から一本のワインを取り出し、開けながら


 「ほう?本当にそれだけか?」

 「相変わらず察しがいいな。あの聖女についてだ。『本当』なのか?」

 「ん?あぁ。前に一回それについて話あっていたのだが、その時には君はいなかったね。まず聞こう。どう感じた?あ、ワインをどうぞ。」 

 「おっと…目と髪の色はそっくりだ。けれど魔力は全然ない。他人の空似にしては似すぎている。といった感じだな。」


 ワイングラスをくるくると回しながら会話をする。


 「ふっ。火竜サラマンダーと同じことを言うのだな。」

 「勘弁してくれ。バスク、あいつと一緒なのはなんか嫌だ。」

 「それも言ってた。まぁ、『あの方』のことを私たちはあまり知らない。その中で否定するというのは愚かな行為であるから、この問題については保留としたんだ。」

 「なるほどな。あと扉の前にいる『勇者』?ってなんだ?それにあの剣。たしか『永久不滅の剣デュランダル』だよな?なぜあんなやつが?」

 「あぁ。彼に会っていたのか。彼の名は『マーティレッド・ロイトア』。デュランダルに選ばれた人間だ。あと勇者というのは、人間たちの大きな戦力というものと認識で大丈夫だ。」

 「まじかよ。あり得ないことではないが...」


 考える仕草を少しした後、まぁいいっかというような雰囲気でワインを一気飲みした。


 「あぁ!もったいない。ワインは香りを楽しむものだろう。」

 「なに言ってんだ。ワインと言ったらのど越しのよさだろう?」

 「それはエールの話だ。まぁいい、久しぶりに個人で話せたな。まぁまぁ楽しかったよ。」

 「あぁ。そうだな。邪魔したな。」


 入ってきた扉から部屋を後にした。

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