第17話

 公爵家の館の美しく手入れされた広い庭園の中央の開けた部分が手合わせの場所となった。


 およそ10メートルほどの距離を取り俺とオグエノはにらみ合い、対峙する二人から少し離れてバロネッテ、ルドヴィ、レーネと兵士たち、公爵家の家令とメイドたちが見守っている。


 オグエノはその皺だらけの顔に皺をさらに寄せて深め、怒りと殺気が分かりやすくこもった目で俺を睨み付けていた。どうやら相当怒ってるな。いい年してほんと相変わらず単純な爺さんだ。


 師との手合わせも随分久しぶりになる。あれから5年。今俺がどの程度成長したか測るには本気にさせる必要があったのだが、過分なプライドを持つ分、煽ればすぐに乗ってくれた。さっき俺の事を短気とかって言ってたけどあんたも存外、短気だけどな。



 

 特に何か合図することもなく手合わせが始まる。仕掛けたのは俺だ。魔力を籠め両手をかざす。



「アースランス」



 大地の粒子が舞い上がり、込めた魔力と混ざって空中で一本二本と次々に大きな槍が形成される。オグエノは此方を睨んだまま動かない。土石の槍が十本を超えたところで外野から「信じられない」とか「なんて具現の速さだ」とか騒いでいたが、さらに槍を生み出すことに集中する。


 瞬発的に魔力を高め槍を飛ばす。ヒュンと風切り音を立て高速でオグエノへ迫る。槍が激しい音と同時に粉々に砕ける。


 オグエノの目の前にある不可視の壁に槍はぶち当たり槍だけが壊れる。瞬きする間もない速さで槍の雨を食らわすが次々と壁に阻まれるドドドドッと激しい連打音がするだけでびくともしない。


 何て固いエアロウォールだよ。一瞬で展開したくせにこの強度はさすがだな。



「その程度か、下らん」


「うるさい...!?」


 背後から魔力!?


 攻撃を継続しつつ、背面に迫る、地面から延びる黒い帯をかわす。魔力で作られた先端の鋭い帯は複数で蛇のようにしなやかに、波打ちながら襲いかかってきた。体をよじり、跳び、屈み、を組み合わせて躱し、躱す。躱す躱す躱す。


 魔力の帯ダークバインドは、たどればオグエノの足元から魔力の残滓が見えたが同時にオグエノの両手より魔法が展開されていたことに気づく。躱すのに集中していて攻撃の手が緩む隙をついてきた。



「死ね。エアーバレット」



光の歪みだけでギリギリ目視できる無色透明の空気の弾何十発、容赦なく打ち込んできた。かわせない。反射的に「フレイムウォール」爆発力を生むように出力を一気に高めて魔力を展開し火焔の障壁を展開。襲い来るダークバインドとエアーバレットを焼き尽くす。



「!?」



 気配を感じ、体を大きくかがめ火焔の障壁ごと切り裂く風の刃をギリギリで躱す。火炎が散った先にはいつの間にか距離を詰めていたオグエノが両手で握る風の大鎌を振りかぶる姿があった。足裏に魔力を籠め切りつけられる寸前のところで後ろに跳躍し、躱すと同時に距離を取った。


 風の大鎌を消し、エアロウォールを展開し、さらに此方にエアーカッターを飛ばしてくる。俺もエアロウォールを展開し、エアーカッターを飛ばしてオグエノのエアーカッターにぶつけ相殺し霧散させた。


 どうもそれが気に食わなかった、同じ魔法で相殺されたことに苛立ったのか更に魔力を込めた風の刃を飛ばしてきたため俺も同じく風の刃を飛ばし先程と同じように無力化した。


にやりと笑ってやった。


 顔を真っ赤にしてこれでもかというほど何度も風の刃を飛ばしてきたが、同じように同じ魔法で相殺してやると更にムキになって風の刃をとばし、そのやり取りが暫く続いた。続けば続くほどオグエノの顔が赤くなってムキになっていくのが面白い。


 爺さんに同じ魔法で圧倒することは出来ないが同じ魔法で対抗できるまでには成長できたようだな。さて、このまま爺さんが力尽きるまで打ち合うのも手だがどうせならやってみるか。


 オグエノが同じように放つ風の刃を今度は躱し、俺はわざわざオグエノを本気にさせて手合わせするように仕向けた本当の目的である魔法を展開した。

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