第16話

「まず、勇者の鑑定について聞きたいんだが祝福の内容は分からなかったっていうのは本当か?」


「報告した通りじゃ。祝福は持ってるようだったが中身は何かの力で隠されておったわい。儂の鑑定で探れない程じゃ。儂以上となるともう神しかおらんじゃろ神しか。神の力、つまり祝福でと考えるのは自然な事じゃ」


「相変わらず自信過剰だなぁ」


「過剰ではない、事実じゃ」


「あーはいはい。で、何か祝福を探る方法の心当たりはないか?」


「ない」



 即答かよ。



「そもそもじゃ。祝福がどうあれ、あの勇者では例え祝福が役に立つものであったとしても素直にお前に協力するとは思えん。諦めるんじゃな。そして早く帰れ。儂は忙しいと言っておる」



 たしかにあの勇者が此方に協力することはないだろう。無理矢理というのは人道に反するし俺にそれをする気はない。



「勇者召喚の召還魔導陣だが、あんた親父に力を貸したのか?」


「...何のことじゃ?」


「あれを親父一人で完成させたっていうのがどうも納得できない。あれは人がどうこうしてできるものとも思えない。が、あんたなら可能だったんじゃないのか?」


「...もしそうじゃと云ったらどうというのじゃ?」



 オグエノの言葉を聞いて俺の体の中に冷たくドロドロとした何かが全身を駆け巡る。



「ク、クロノス陛下」



 後ろに立つバロネットが震える声で俺に声を掛け、振り返るとバロネットとレーネの顔が青ざめ少し震えていた。



「若、殺気が漏れておりますよ。がはは。久しぶりに血が騒ぐわい」



 どうやら無意識に殺気が漏れていたらしくルドビィの言葉を聞いて深呼吸し心を落ち着け威圧を抑えた。



「ふん、短気なのは祖父譲りじゃの」



 祖父、つまり先々代の国王ジャークスの事だがオグエノ曰く俺は祖父にそっくりとのことを以前言われており、俺に対しての扱いがぞんざいなのもどうやらそれが原因らしい。


 昔、メイド長のエマに聞いたことがあるのだが祖父ジャークスとオグエノは幼少からの縁であり出会ってからずっと争ってばかりだったらしい。なんと祖母である先々代の王妃ヘンネを二人とも愛し、ヘンネを巡って争ったこともあるそうだ。



 俺に祖父と祖母の記憶はない。祖母は病気で早くに亡くなり祖父も俺が生まれる前に魔物討伐の指揮を執った際、その戦いにおいて命を落としていた。



「もし爺さんが親父の勇者召還に手を貸していたのであれば俺は許せない。親父が死んでしまったのは勇者召還の研究による過労だ。母を殺した奴が全ての元凶だと分かっている。それでも、俺は、許すことができない」


「儂は手を貸しておらん。それに儂が貸したところであれは無理じゃ。お前が言う通りあれは人がどうこうして作り出せるものではない」


「じゃあどうやって親父はあれを作りだしたっていうんだ?」


「偶然か、はたまた神の気まぐれか。ただ、一つ言えることは平凡と呼ばれる王にも見えない牙は存在したという事かもしれん」


「見えない牙?」



 祝福?しかし親父が祝福を授かっていたなんて聞いたことがない。



「なんにせよ分からんもんは分からん。話はおわりか?ならさっさと帰れ」


「わかった。勇者の件については以上だ。もう一つ要件がある。これは国王としてではなくあなたの弟子として。師よ、俺と手合わせ願いたい」


「嫌じゃ。なぜそんな面倒なことをせにゃならんのじゃ」


「何、簡単な事です。今となっては俺があなたより強くなったと自負しております。それを認めて頂こうと思いまして」


「なんじゃと?」



オグエノは鋭い眼光に殺気を籠め此方を睨んだ。



「師よ。勝負いたしましょう」

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