第15話

「おぉ!レーネ!よくきたのぉ!」

「ちょっ!お、おやめ下さい!おじい様。陛下の前ですよ!」


 公爵家の屋敷に入った途端、国王の俺には目もくれずそばに控えるレーネに飛びつき抱き着いた老人こそが今回の目的の人物であるオグエノ・シュプレンガーその人である。


 嫌がるレーネをよそにだらしない顔でレーネの着ている鎧に頬ずりしている。俺やバロネッテ、ルドビィのようにこの光景に見慣れている人間以外の周り者は皆、ドン引きである。



「オグエノ様、陛下の御前でございます」



 オグエノの後ろに控えていた初老の家令らしき人物が冷静に言い放ちオグエノがレーネに抱き着いたままめんどくさそうに俺を見た。



「うん?あぁ。なんじゃお前。用はないからレーネだけ置いてさっさと帰れ」


「おい爺さん今日行くって連絡したはずだが?」


「はて、知らんのぅ」



 相変わらずだなこのジジイ。



「おじい様!陛下に向かってなんてことをおっしゃるのですか!」


「だって--」


「だってじゃありません!」



 レーネが顔を真っ赤にしてオグエノを怒り出した。本気で怒られしゅんとしたオグエノの姿にざまぁみろと思った。オグエノは孫であるシュプレンガー公爵家三女のレーネを溺愛している。俺一人だとはぐらかされたり居留守使たりと相手をしてくれない可能性があったため今回レーネにも来てもらったわけだ。



「おじい様!」


「うぅ、レーネよ。そんなに怒らなくても。わかったのじゃ。....で、何の用じゃクロノス」


「おじい様!」


「はぁ、もういいよレーネ。とりあえず落ち着いて話ができるところに案内してくれ」



 屋敷の家令が先導し執務室へと案内された。部屋の中央にあるソファーに俺とオグエノは対面して座った。オグエノの後ろには初老の家令が、俺の後ろにはレーネとルドヴィ、バロネットが控えた。



「それで、何の用じゃ。わしゃ忙しいんじゃが。もしレーネを嫁に欲しいとかふざけたことを抜かしたらぶっ殺す。というか国を滅ぼしてやる」



「相変わらずだよなぁ、爺さんは。国王だよ?俺」


「はっ!鼻たれ小僧が」


「はいはい。早速だけど勇者について聞きたいことがあるんだよ。勇者についてだ。先日の鑑定についても詳しく聞きたいし。それに召還については詳しいだろ?...特に今回の召還については」



オグエノの眼が一瞬鋭くなった気がした。



「はて、何のことかの?」



 いい機会だからいろいろと探りを入れてみよう。母が死に親父は一人で勇者召還の召還魔導陣を完成させた。しかしそれは本当に親父一人で完成させたのか疑問に思っている。


 確かに親父は平凡とはいえ腐っても王族であり、それなりの訓練や魔法についての教育も受けていた。しかし、勇者召還は全くの別物だ。神権の真の教理に触れるものだ。王族とはいえ一人で、たかだか数年程度で、神の深層の一端を垣間見ることが果たして可能なのか?


 この疑問は父亡き後、勇者召還の魔導陣を目にし俺自身が感じた違和感にある。言葉にできない何かを感じた。それと同時にふとある顔を思い出した。俺の魔法の師であり現代最高の魔導士であるオグエノ・シュプレンガーの顔を。親父にオグエノが力を貸して完成させたというのであれば俺の中ではしっくりとくる。


 

 直観めいたものだが、このジジイは俺の知らない何かを知ってるはずだ。

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